研究課題/領域番号 |
22K00514
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
高田 博行 学習院大学, 文学部, 教授 (80127331)
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研究分担者 |
板橋 拓己 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (80507153)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ナチズム / 語彙分析 / 政治的言説 / 右翼ポピュリズム |
研究実績の概要 |
2023年度は、「ふつうの人々」における言語使用という観点を切り口にして、いくつかのナチ語彙の意味について考察をさらに進めた。以下、Volksgemeinschaft「民族共同体」というナチ語彙を例にして研究成果の一部を解説する。ナチ体制下の「ふつうの人々」の言語使用を知る目的で、亡命社会民主党が1934年4月~1940年4月にドイツ国内の情報提供者による世情分析を国際的に発信した『ドイツ通信』(Deutschland-Berichte)における報告文を分析した。すると、ナチ指導部がこのVolksgemeinschaft「民族共同体」という語を使用したときには「新しい」「築く」など未来志向の語が特徴的であるのに対して、工場労働者などの「ふつうの人々」が同じ語を口にしたときには「義務」「強制」「締め出す」「敵」というネガティブな語が特徴的であった。これは、「ふつうの人々」が「民族共同体」の一員として認知されないと大きな不利益を被ってしまうことを常に気にかけていた証と解釈できる。現在のドイツに目を向けると、エリートではない「ふつうの人々」の代弁者を自認するAfD(ドイツのための選択肢)の政治家たちがナチ語彙を再使用し、言語面からナチズムを想起させる。AfDの政治家のひとりであるAndre Poggenburg (1975-)が2015年にFacebookでVolksgemeinschaft「民族共同体」という語を使用したとき、Poggenburgは「この語はナチ体制以前から存在するのでナチ語彙ではなく、また頻出したという点ではVolkswagen「国民車」と変わりはしない」と弁明した。AfDの政治家がナチ語彙を口にするとき、告発を避けるべく語の意味はナチズムにおける本来の意味から巧妙に変更されていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回新たに「ふつうの人々」における言語使用という観点を導入したことによって、前年度と比べてナチ語彙の変遷を追いやすくなった。
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今後の研究の推進方策 |
2024年には、AfD幹部であるBjoern Hoeckeの演説文を100点から200点ほど収集して、現在ドイツの政治家におけるナチ語彙使用の実態についてさらに詳細に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主として「謝金」支出が予定よりも少なかったため。
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