研究課題/領域番号 |
22K00533
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
田島 弥生 山陽小野田市立山口東京理科大学, 共通教育センター, 准教授 (10758204)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 言語相対説 / 眼球運動測定 / 談話 / 情報構造 / 周辺認知 |
研究実績の概要 |
日本語には周辺情報から先に言語化されるという情報構造が見られる。それは、統語レベルにおいては主要部(Head)が句や節の最後に現れて、ComplementやModifierがその前に現れるというHead-finality構造に見ることができるし、また談話レベルにおいても、周辺情報から先に述べるという習慣的な情報提示の順序にその傾向を見ることができる(池上 1981)。文化人類学研究では、日本人の周辺認知の高さが指摘されるたびに、アジア人特有の包括的認知傾向にその解釈が求められてきたが、上記の言語的特徴を勘案すれば、日本語特有の言語習慣によるものという言語相対説的解釈も可能である。つまり、周辺情報から先に言語化される日本語談話の情報構造により、日本語母語話者は周辺情報により注目するという認知傾向を身につけるようになったのである。 この仮説に基づき、本研究では、日本語、英語の母語話者を対象に、まずは静止画像の言語描写実験によって各言語の談話レベルに観察される情報構造パターンを特定したのちに、静止画像を注視する際の眼球運動を計測し、画像の中心部から周辺部へと注視点が移行する早さを言語グループ間で比較する。 実験刺激には、人物写真、動物写真、絵本の挿絵を各8枚ずつ選定して24枚の画像を用意し、24枚のフィラーと合わせて合計48枚の刺激セットを作成した。静止画刺激をTobii Pro ラボに取り込み、画像の中心部をFigure領域、 周辺部をGround領域と設定し、刺激提示順序をランダム化した。自発的な実験参加者(日本語母語話者38名)を募り、アイトラッカーを装着したPC画面に静止画像を一枚ずつ提示して、画像の「言語描写あり」と「言語描写なし」の二つの条件設定で、Figure領域とGround領域に現れるFixationをそれぞれ観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は日本語母語話者38名のデータを採取することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、採取したデータの分析を行う。まずは言語描写データから、Figure領域に属する要素とGround領域に属する要素を抽出し、Figureの前に現れたGround要素の数の平均値を言語グループ別に算出する。これにより、日本語、英語の談話レベルに観察される情報構造が、Figure > Groundの順序であるか、Ground > Figureの順序であるかを特定する。次に、眼球運動データから、Time to First Fixation(刺激提示開始からFigure領域、Ground領域に初めて注視点が現れるまでの時間)と、Total Fixation Duration(Figure領域、Ground領域に現れた注視点の滞留時間の合計)を計測し、Figure領域からGround領域へと注視点が移行する早さを言語グループ間で比較する。この2つの結果により、Ground-Figure型の言語グループ(周辺情報から言語化される情報構造を持つ言語母語話者)は、Figure-Ground型の言語グループよりも、静止画像のGround領域へと注視点が早く移行するかどうかを統計的に検証する。
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