研究実績の概要 |
本研究は,構造依存性が言語の普遍的特性として現れる理由を再考するなか,類型論的に異なる日本語と英語(以下,日英語)の統辞構造の比較研究を推進する。具体的には,生成文法理論の枠組みのもと、日英語の統辞構造の背後に仮定されてきた併合 (Merge (X, Y) = {X, Y}) の手続きを見直し,併合が生成する統辞構造の普遍的特性と外在化 (externalization) が誘因する多様性について,(i) 語彙項目の特性,(ii) 併合の適用手続き,(iii) その手続きを厳しく制限する一般法則,という三つの要因とその相互作用から統一的な説明を試みる。
本研究初年度である2022年度は、移動と呼ばれてきた内的併合 (Internal Merge) と併合と呼ばれてきた外的併合 (External Merge) の両者の違いは併合 (Merge (X, Y) = {X, Y}) の適用手順の違いに過ぎないという研究成果を踏まえ,この併合の極めて単純な定式化に検討を加えることから始めた。具体的には,併合の適用前と適用後の作業空間の状態を明らかにし,併合 Merge (X, Y) = {X, Y} の適用前はXとYが作業空間に存在するが,適用後はX, Y, {X, Y} の三要素ではなく,{X, Y} のみが存在するという仮説をとりあげ,要素Xと要素Yはどのようにして作業空間から消失したのかという問題について,併合の適用と作業空間の写像の関係を厳しく制限する一般法則に言及する分析を提出した。さらに,この分析に検討を加えるなか、併合によって生成される統辞構造の文法関係として,構造依存性が言語の普遍的特性として繰り返し現れることを考察した。
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