研究実績の概要 |
まず,日本語音声の無声阻害音に関する実時間特性について,大規模コーパスを用いて,その特性を調査した.阻害音のうち,[p], [t], [k] などの子音は一般に破裂音とされている.破裂音は閉鎖区間・破裂時点・開放区感を持つ調音方法で,解放区感が緩慢な破擦,破裂時点と開放区間を持たない閉鎖という変異が起こり得る.この点について,生理学的な指標および音響的な時間特性を検討した結果,日本語の [p], [t], [k] は閉鎖と判断しうることを客観的に立証した.これらの子音が基底で破裂ではなく閉鎖の性質を持つことは,日本語の撥音や促音の生起にも一定の知見を与える.さらに,日本語の [t], k] と [d], [ɡ] における発声の対立,すなわち VOT の分布についても新しい知見を与えうる.高田 (2011) の研究でも示されているように[d], [g] の VOT 分布はしばしば双極性の分布を描く.その理由として,喉頭制御のタイミングを決める基準点が2箇所あり,各基準点に対応して分布が成立していくのか,あるいは喉頭制御を行うタイミングは限定されているが,ある時間帯について抑制因子が存在するため,結果的に双極性の分布が現れるかの,2つの仮説が考えられる.もし [d], [g] が破裂音であれば喉頭制御のタイミングが閉鎖区間と開放区間の各々に設定される可能性があるが,これらの子音が閉鎖子音であれば基準点を2箇所設定されているとは考えにくい.したがって,喉頭制御に関してある種の抑制が働いていることが予測される.この点について,日本語の各子音時間特性を藤村靖が提案している C/D モデルに当てはめ,その生成モデル過程を考察した.
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