研究課題/領域番号 |
22K00547
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
栗林 均 東北大学, 東北アジア研究センター, 名誉教授 (30153381)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | モンゴル語 / モンゴル文字 / モンゴル文語 / デジタル画像 |
研究実績の概要 |
モンゴル文語は13世紀以来今日に至るまで各地のモンゴル族の書き言葉として用いられてきたことから、時代的、地域的に多様な文献資料が大量に残されている。これまでは保存されている資料の利用が制限されていたことから、原本の鮮明な影印の公刊や研究は立ち遅れた状態にあったが、近年モンゴル国と中国を中心に資料の公開促進が進み、印刷技術の発達に見合った多数の良質の影印資料が利用できるようになった。これと並行して、研究者にとってはパソコンによるデジタル画像処理の技術の進歩によって、個人でこうした影印資料を利用した研究を行う環境が整ってきた。 本研究はこうした状況をふまえて、モンゴル文語資料の影印資料をデジタル画像化して、各時代、各地域、各ジャンルごとにモンゴル文字の字形、単語の綴り、語法、語彙といった言語的特徴を文献ごとに蒐集整理した上で、700年以上にわたるモンゴル文語の歴史的(通時的)な実態と変遷の過程に光を当てることを目的としている。 研究では、まず13世紀以来のモンゴル文語の文献資料を時代、地域、ジャンル(内容)ごとに文献を選定し、それらをデジタル画像化して、画像処理を行う。次に、デジタル化した画像から単語と文字を切り出し、それらに文献名、出現位置(巻、頁、行)、ローマ字転写等のタグを付け、それらをデータベースに登録することにより、どの単語がどの文献のどの位置に現れ、どのような語形、字形で表記されているか、検索・表示できるようにする。このデータベース・システムはインターネットによって公開し、誰でも、いつでも、どこからでも利用できるサービスとして提供する。データベースの構築を進めながら、各文献の表記上の特徴を整理し、13世紀以来の書き言葉としてのモンゴル文語の歴史的な変遷の過程を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の手順として、モンゴル語文献資料を時代とジャンルによって次のように分類した。時代的には、13~14世紀のモンゴル帝国の時代、15~17世紀の明朝に対応する時代、17~19世紀の清朝の時代、そして20世紀の前半までの時代であり、ジャンルとしては、碑文、仏典、行政文書、档案、歴史書、辞書、文法書、暦法書等に分類した。これらのうち、それぞれの時代とジャンルにおける代表的な文献資料を研究対象として選定して、影印のデジタル化と画像処理を進めた。計画初年度の作業として、13~14世紀の碑文と木版本のデジタル画像を画像処理した上で、画像から順次単語の切り出しと出現位置(文献、頁、行)のタグ付けを行うとともに、文献ごとの表記上の特徴の整理を進めている。 研究では、モンゴル語石碑文は、数百年の年数を経て碑面の損傷や汚れが顕著なものが多く、拓本から文字や単語を切り出す画像デジタル処理に困難が生ずることが少なくない。これらに関しては、比較的明瞭な部分の画像からデジタル処理を進めているが、当初に期待していた分量と質の成果を得るに至っていない。 研究では、中国の内蒙古大学蒙古学学院、内蒙古自治区社会科学院語言研究所、西北民族大学蒙古語言文化学院、中央民族大学蒙古語言文科系の研究者と協力して、中国の図書館や研究機関に所蔵されているモンゴル語文献資料に関する情報交換と影印資料の入手を進めることを大きな柱として、海外出張の旅費を研究経費として計上した。しかし、事業期間の初年度には、新型コロナの世界的な感染拡大が続き、中国政府の入境防疫政策が強化されたため、年度内に中国出張を行うことができなかった。このため、執行できなかった出張旅費の一部を繰り越して、次年度に旅費として事業を執行することにした。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の2年目にあたる本年度の研究推進の方策としては、第1に、初年度に進めてきたモンゴル文語資料のデジタル化と画像処理を継続して行い、文献ごとにモンゴル文字の字形と表記上の特徴をまとめる作業を継続することである。初年度に行った13~14世紀のモンゴル帝国時代の石碑文と木版本の資料整理を続けながら、対象を17~19世紀の清朝時代の木版本仏教文典に広げ、資料の整理を行う。画像処理は、汚れの除去やコントラスト等の調整だけでなく、文字や単語の切り出しとそれらのタグ付けが含まれる作業であるため、研究のなかで多くの時間と労力をあてる主要な部分となる。。 研究2年目の課題の第2は、中国で出版されたモンゴル語古文献の影印資料を入手して研究に組み入れることである。中国では、「海外所蔵蒙古文古籍影印彙集」(内蒙古人民出版社、2019年、全8巻)、「国家図書館蔵蒙古文古籍精選」(内蒙古人民出版社、2020年、全15巻)、「国家図書館蔵民族文字古籍叢書」(北京大学出版社、2020年、全8巻)等々、モンゴル語古文献の影印資料の大規模な出版事業が行われており、当初の研究計画では、これらの資料を利用することを予定していた。しかし、研究初年度には新型コロナの感染拡大に伴う中国政府の入境防疫対策の強化により、中国への渡航が不可能な状態が続いたため、この分野での研究は計画通りに進めることができなかった。今年度は、内蒙古大学、中央民族大学、西北民族大学の研究者と協力してこれらの資料を入手し、研究対象とする文献を選定した上でスキャンによるデジタル化を進め、研究の基盤を確かなものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
事業期間の初年度に計画していた海外出張の旅費が、新型コロナの感染拡大による中国政府の入境防疫政策の強化により執行できなかった。このため、旅費の一部を繰り越して次年度に海外出張旅費(中国、モンゴル)として執行することにした。
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