研究課題/領域番号 |
22K00553
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山泉 実 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 准教授 (80592336)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 指示参照ファイル理論 / 名詞句 / 存在文 / コピュラ文 / 認知形而上学 / 潜伏疑問 / 視座俯瞰認知メタ形而上学 / 自由拡充 |
研究実績の概要 |
本研究は、申請者独自の指示参照ファイル理論によって、存在文とコピュラ文の“多義性”(解釈多様性と形式的統一性)を解明することを目指すものである。2022年度は、単著論文2本(a,b)を公刊し、口頭発表(c)、ポスター発表(d)を1回ずつ行った。 a.「名詞句の自由拡充再考―問題の指摘と指示参照ファイル理論による分析―」『科学哲学』55(2):89-110.◆本研究の枠組みである指示参照ファイル理論を用いた分析が初めてメジャーな学会誌に掲載された。理論の哲学的基盤を論じるとともに語用論的現象の分析に有効であることを示した。 b.「視座を俯瞰した認知的メタ形而上学の試み-構成のアンチノミーをめぐって-」『EX ORIENTE』27:51-83.◆指示参照ファイル理論及びそれと対になる認知形而上学によって、形而上学の難問を分析し、同時に、その難問に対する既存の学説を認知的視座からメタ的に分析することにより、視座俯瞰認知メタ形而上学という、指示参照ファイル理論+認知形而上学の応用可能性を示した。 c. 「所謂「意味機能」による区別はどこでなされるべきか」第144回慶應意味論語用論研究会◆指示参照ファイル理論に先行する理論であるN-意味理論では意味機能の違いによる“多義性”があると言われている例を、コピュラ文を中心に指示参照ファイル理論によって分析し、名詞句の意味機能の違いによる曖昧性と言われているものは、狭義言語機能の外に位置付けられる概念構造で区別可能であり、狭義言語機能における区別が(でき)なくても問題ないことを示した。 d.「「ないものはない」の解釈:指示参照ファイル理論の紹介と共に」言語学フェス2023 ◆存在文の中でも“多義性”の著しい「ないものはない」を指示参照ファイル理論で分析し、存在文全般の分析への橋頭堡を築くとともに、理論を非専門家を含めた聴衆に紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
指示参照ファイル理論をメジャーな学会誌(上記a)や日本最大級の言語学イベント(上記b)で紹介できたため。 存在文について、最も複雑な分析を要すると思われる「ないものはない」の指示参照ファイル理論による分析が一通り完成し(上記c)、他の存在文も同様の分析が可能であるという見通しが立ったため。 コピュラ文についても、解釈多様性と形式的統一性を持つ代表的な例(「私の意見は大学の意見だ」、“Ivanka’s father is the president.”等)の指示参照ファイル理論による分析が一通り完成し、そのことの理論的含意も示すことができたため(上記d)。
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今後の研究の推進方策 |
1.ポスター発表した「ないものはない」の分析を文章化して公刊する。2.指示参照ファイル理論による、「ないものはない」以外の存在文や各種コピュラ文(措定文・(倒置)指定文・(倒置)同定文・(倒置)同一性文・定義文・提示文など)の分析を進め、理論と分析を精緻化する。3.上の現象を扱っている他の理論(N-意味理論、メンタル・スペース理論、メンタル・ファイル理論など)を精査し、参考とする。理論の細部、たとえば指示参照ファイルのデータ構造についても、Barsalouのフレーム理論など他の枠組みを参考に考察する。4.コピュラ文の分析の口頭発表資料を元に、コピュラ文全般を扱った論文を執筆する。5.指示参照ファイル理論のモノグラフを出版予定の出版社で先に動いている共著2冊を公刊し、モノグラフ公刊の地ならしをする。6.指示参照ファイル理論の集中講義を行い、その準備としてモノグラフを書き上げる。7.2021年に論文を公刊した潜伏疑問名詞句についても、指示参照ファイル理論の立場からの考察を深め、論文を執筆する(共著論文を投稿予定)。8.等位複合体(co-compound、例「合否」「善悪」「男女」「やるやらない」「いい悪い」「そばうどん」)の分析にも指示参照ファイルのデータ構造が有効であるという見通しがあるため、論文を執筆・投稿する。9.日本語原著論文の英訳を科学基礎論学会欧文誌に掲載する制度を利用して、「名詞句の自由拡充再考―問題の指摘と指示参照ファイル理論による分析―」の英語版を出版する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本学サバティカル制度利用中の授業代行にもバイアウト経費を充てることが可能であるらしいことがわかったため。ちょうど2024年度前期に同制度の利用を予定しているため、それに充てることを計画している。
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