研究課題/領域番号 |
22K00559
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
川原 繁人 慶應義塾大学, 言語文化研究所(三田), 教授 (80718792)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
キーワード | 最大エントロピー法 / 音象徴 / 実験言語学 / 学術雑誌論文出版 / 解説論文出版 / 一般向けの著作出版 / 学会発表 / メディア出演 |
研究実績の概要 |
連濁という現象を用いて最大エントロピー法でモデル化した場合、どのような予想が成り立つのかを精査し、その予想を実験的に検証した。ある言語構造がある制約を違反する形を複数持つ場合、どれだけの制約違反を想定するかによって、最大エントロピー法の予測が大きくことなる。この予測検証のため、合計3つの実験を実施し、その結果は、Laboratory PhonologyとGlossaという分野でも高く評価されている学術雑誌に掲載された。同じような実験検証が韓国語の濃音化現象でも可能であることから、現在、フォローアップ実験を計画中である。韓国語を専門とする研究者たちと実験に関するミーティングを行い、現在刺激を作成中である。ポケモンの音象徴に関する実験も継続的に行い、新たな論文をPloSOneとFrontiers in Psychologyからそれぞれ出版した。
また、開拓社から出版された『言語理論・言語獲得理論から見たキータームと名著解題』に最大エントロピー法の解説論文を掲載した。さらに、『フリースタイル言語学』(大和書房)という一般向けの著作を執筆し、その中で、エントロピーの概念がいかに言語現象を捉えるのに有効かを分かりやすく論じ、演技の指導を行っているトレーナーとともに、この概念を取り入れた演技指導の可能性を模索している。さらに、同書では、ポケモンの名前における音象徴の最大エントロピー法を使ったモデル化も紹介し、この分析が人間言語の音象徴的側面を捉えることに如何に有用であるかを論じた。『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)及び『言語学者、外の世界へ羽ばたく』(教養検定社)でも、どうようなポケモン研究がこれまで行われてきたかを紹介し、これら三冊は新聞書評や他のメディアで高く評価された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述の通り、着実に学術雑誌論文の出版を続けており(2022年度には、国際学術雑誌に計四本)、研究は順調に進んでいると言える。学会発表や学会での招待講演も堅実にこなしていった。2022年度に出版した論文に関するフォローアップ実験も計画中であり、他にも音象徴に関する実験が数本、現在進行形で進んでいる。この点において、研究は順調に進んでいると言える。
また、申請書で記載したように、解説論文も予定通り出版した。さらに、三冊の一般書を出版することもでき、予想以上に広い範囲の人々にエントロピーという概念の重要性を知らせる契機を得ることができた。特に、『フリースタイル言語学』を契機とした、「演技指導においてエントロピーという概念が有用である」という気付きは予想以上のものであったといえる。言語学という学界内部に留まらずに、その成果を芸能教育に応用できたということは、期待以上の成果であった。
また、2022年度に三冊の本を出版したことを契機に様々な出版社から、新たな執筆依頼があった。2023年度にも新たな書籍を出版するために準備を進めている。それらの書籍の中でも、本研究の結果を解説し、言語学研究の魅力を非専門家に知ってもらう契機となることが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
上述の連濁に関する実験結果から、さらに連濁に関して実験検証が必要な諸相が浮かびあがってきたため、フォローアップ実験を計画している。例えば、連濁を阻止すると言われているライマンの法則に距離の効果は観察されない、というのが過去の研究の結果であるが、過去の実験研究は実験参加者の数が少なく、現代の統計基準から考えると、再検証が必要であると思われる。ライマンの法則は、複合語の前部要素に濁点がある場合は起こらない、というのが定説であるが(「強いライマンの法則」)、こちらも十分な実験参加者の数を確保した上での検証が必要になると思われる。これらの実験は、現在、刺激の構造などを構想中である。
また、連濁と似たような現象が韓国語でも観察されることから、この問題を韓国語を専門とする研究者たちと実証研究を行う。この実験に関しては刺激語の作成は終了しており、今後速やかに新たな実験を行うことが可能であることが期待される。また、申請書に記述した鼻濁音化現象に関しては実験が完了し、学術雑誌に投稿したところ、改稿を要求されている。2023年度には、この論文の出版を目指して、改稿を行う。実験規模も大きく最大エントロピー法の分析も複雑なため、複数の論文出版の可能性につながる可能性もある。さらに、音象徴に関してもいくつかの新しい実験を行っており、いくつかの実験結果はすでに得られている。これらは学会発表や学術雑誌論文出版などを通して、確実な研究成果につなげていく予定である。
これまでに出版した一般向けの著作も好評を得ており、新たな出版社からの執筆依頼も多くきている。エントロピーという概念が言語学に留まらず、広い意味を持つことを分かりやすく解説する機会になると思われる。
|