研究課題/領域番号 |
22K00562
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研究機関 | 金城学院大学 |
研究代表者 |
森田 順也 金城学院大学, 文学部, 教授 (20200420)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 動詞化 / 語形成 / 創造性 / 統語‐形態インターフェース / 分散形態論 / 大規模コーパス / hapax |
研究実績の概要 |
本研究は、子供による言語の獲得、とりわけ語彙の獲得の説明-子供が短期間に大量の語を獲得できるのはなぜか―を最終目標として、日英語の動詞化現象に焦点を当てて、そのメカニズムを明らかにするものである。子供が限られたデータを基にして短期間に言語を獲得するという事実を説明するためには、語彙部門を制限するとともに形態‐統語の相関関係を制約することによって、子供が覚えるべき語彙項目・語彙情報を最小限にする必要がある。本研究では、「分散形態論」(Distributed Morphology)の文法モデルを基盤として、形態統語的現象の中心である範疇化、とりわけ動詞化(verbalization)のプロセスを対象として上記の作業を着実に推進している。具体的には、下記2つの調査によって動詞化の創造的・普遍的側面を浮き彫りにすることを試みてきた。上記の研究の集大成として、著書(学術書)、『分散形態論に基づく語形成の分析』を出版した(2024年3月、開拓社、総ページ数:217)。本書は、無限の複雑語を生成する仕組みの解明を目的として、日英語の「範疇化」に焦点を当てて、「分散形態論」(DM)的視点からそのメカニズムを解明するものである。第1章では、「言語能力の解明」という生成形態論の最終目標を確認した後、目標達成へのアプローチを明示する。第2章でDM理論の輪郭を示した後、第3章で理論の要となる形態機構を解説する。第4章では、名詞化現象の意味的・形式的特性群を分類した後、その特性群を説明する。同様な手法で、形容詞化(第5章)及び動詞化(第6章)の分析が行われる。第7章は、範疇化分析の総括に充てられる。従来の理論との違いを明確にしながら、DM理論全体の枠組みを再編する。第8章では、DM理論にとって扱いの難しい現象を取り上げ、その対応策を提示する。第9章は、結びの言葉とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、形態的機構の仕組み及び統語的機構との相互関係の解明を目的として、日英語の種々の動詞化表現を規則的に生成するメカニズムを明らかにする。そのために、7つの作業仮説を設置し、計画通りに、以下の各ステップを踏んで仮説の検証を行った。 第一のステップとして、「re-/mis-/over-派生語」「転換動詞」「-化する/-がる/-じみる/-づく/-ぶる/-まる/-めく/-める/-やぐ派生語」のリストを作成した。大規模コーパスBNC及びBCCWJから関連するすべての複雑語を摘出し、タイプごとにリストを作成した。 第二に、hapax legomenonのリストを作成する。ステップ1で作成したリストの各語彙項目をBNC・BCCWJで検索し、hapaxの動詞表現を選別した。 第三にコーパスの検索を行った。ステップ1、2で作成したリストの各語彙項目をBNC・BCCWJで順次検索し、上記の作業仮説に照らし合わせて必要な形態・統語的情報を、丹念に記録していった。最後にデータ解析を行い、作業仮説を検証した。 上記の研究成果を公表するために、The Tenth Brno Conference on Linguistics Studies in English(国際学会)にて、“The Creativity of Word Formation: What Can We Learn from Hapaxes?” という題目で研究発表を行った(2023年9月、Brno, Czech Republic)。本発表は、大規模コーパスのhapax legomenon(頻度数1の語)の3つの有効性を論じるものである。当該のhapaxは、①語形成の創造的側面を示す客観的なバロメーターになること、②先行の統語素材を統合することによって語を造る文脈依存の語形成の検出器になること、及び③重要な理論的含意を与えることを例証する。また、2023 Western Conference on Linguistics(国際学会)にて、“The Origins and Consequences of Phrase Incorporation”という題目で研究発表を行った(2023年11月、Fresno, CA, USA)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、日英語の種々の動詞化表現を規則的に生成するメカニズムを明らかするによって、形態的機構の仕組み及び統語的機構との相互関係の解明することにある。令和5年度は、「日英語の動詞化はどのように行われるか」について調査した。具体的には、最先端言語理論に基づき一連の仮説を設定した後で、日英語の動詞派生語に関して、大規模コーパスによって詳細な事実観察を行いながら、各作業仮説を検証した。令和6年度は本研究の総仕上げとして、日英語の動詞化及び範疇化の過程について調査し、提案する。次の研究活動を行う。 1. 令和2-3年度に行った、日英語の動詞化に関する広範な事実観察の結果を、整理・分類する。具体的には、「-ize/-ify/-ate/-en派生語」「re-/mis-/over-派生語」「転換動詞」「-化する/-がる/-じみる/-づく/-ぶる/-まる/-めく/-める/-やぐ派生語」及び「日英語の動詞複合語」に関する詳細な事実を、整理・分類する。 2. 作業仮説の検証に基づいて各種の動詞化プロセスの仕組を構築した後、それらを統合して動詞化全体のシステムを提案する。具体的には、「一般的操作(e.g. 併合)及び原則(e.g. l節点仮説)に従って、基底表現と共用する動詞化表現の中核構造が、統語機構で構築される」等の作業仮説に基づいて、当該の動詞化の仕組を構築した後、統一システムを提示する。 3. 動詞化、名詞化、形容詞化の仕組を比較・検討することによって、日英語の複雑語形成メカニズムに関する経験的・理論的に妥当な原理(言語事実に合致し、しかも一般性の高い原理)を提案する。 4. 広範な事実観察及び理論的分析を、学会で発表し論文にまとめることによって公表する。
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