本研究においては、調査研究用に提供された人名のデータ(姓から切り離す等の処理を経て提供された文字・言語としての電子情報)を使用した種々の調査を実施した。さらにそれを補い、また詳しく分析をするために、質を異にする情報についても各メディアを用いて採集した。それらを主たる材料として、以下の諸点について検討を加えた。 通時的検討:名の漢字の読み方の史的変遷と各時代における位置付けを捕捉するため、「名乗り訓」(名乗り読み)に関して過去にどのようなものがあったのかについて文献を使じた検証の実施。 共時的検討:現代の名の読み方の実態とそれに関する意識を究明するため、上記の実態に関する計量的な調査(漢字1字単位での読み抽出を伴う)に加え、一般の日本語使用者に対する名の漢字に関する由来や意識についての検討の実施。 それらを通して、名乗り訓については、いわば幽霊情報が写本、刊行物や伝聞によって広まったケースまで存在していたことを確かめ、個別の発出元を解明し、そこからの派生の状況を追跡することで、架空の読み方が定着する過程にいかなる原因があるのかといったことについて検証を通じて解明した。 また、名乗り音と呼ぶべき類型の存在も指摘し、名に集中的に表れる慣用音的な字音が検証されない現状に関して、「佳」(ケイ 呉音説も)「絢」(ジュン)「音」(ノン 連声からの切り出し)「茉」(マ 部分音 森鴎外の頃から)「苺」(ボ 2004年からの新しい人名用漢字)「颯」(リツ フウ)の類を現実の名から見出し、現行の主要な漢和辞典における字音欄と名乗り欄での掲載状況との比較を行うなど、種々の点から確認と分析を行った。
|