研究課題/領域番号 |
22K00579
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
岸江 信介 奈良大学, 文学部, 教授 (90271460)
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研究分担者 |
峪口 有香子 四国大学, 地域教育・連携センター, 講師 (10803629)
西尾 純二 大阪公立大学, 大学院現代システム科学研究科, 教授 (60314340)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 待遇表現 / 無敬語 / 配慮表現 / 規範意識 / 地域差 / ウチ社会 / 地域コミュニティ |
研究実績の概要 |
当研究では無敬語地域における配慮表現の調査研究を通して有敬語地域での配慮表現との比較を行いつつ,無敬語地域の配慮表現の実態を解明することを目的としている。無敬語地域の地域コミュニティの多くは成員間の結びつきが強固であり,コミュニティ自体が地縁関係にもとづいて組織されているケースが多く,ウチ社会を基盤としたコミュニティであると考えられる。現代日本語の配慮表現の使い分けの目安とされてきた目上/目下,ウチ/ソト,心理的・社会的距離の遠近,親疎関係,恩恵の有無などといった基準は有敬語地域においては当てはまるが,ウチ社会をベースとした無敬語地域にも無分別に当てはめて比較することに注意を払わなければならない。無敬語地域では一般的に敬意表現や配慮表現が有敬語地域と比較して希薄に見えるのはウチ社会独特の言語行動の規範となるメカニズムが存在するためではないかと思われる。これを当研究における仮説とし,配慮表現等について精査することにより,この仮説が成り立つか否かを検証する。無敬語地域では成員間の関係が都市部と比較してより緊密であり,ウチ/ソトといった関係も,都市部とは異なり,ウチ社会のみをベースに形成されていると考えられる。無敬語地域では一般的に敬意表現や配慮表現が有敬語地域と比較して希薄に見えるのは,このような要因が大きく関与しており,ウチ社会独特の言語行動の規範となるメカニズムが存在するという仮説を提示することができる。上記のような仮説を検証するため、対面による調査や、通信によるアンケート調査を進める予定である。 当該年度は、大阪府岸和田市、奈良県吉野郡天川村、三重県志摩市を線で結んだ近畿地方南部域を無敬語地域であると記述した(荻野綱男編(2022)『敬語の事典』の「近畿地方の敬語」。さらにこれを実証するため、当該年度において十津川村、上北山村、田辺市などで調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、新型コロナウイルスによる影響を受けたため、対面による聞き取り調査は予定どおり実施できない状況であった。ただし、科研申請時よりこのような事態になることは当然、予想していて、研究計画もこれに応じ、ゆとりを持った研究計画を立てて進めることにした。当該年度を振り返って、対面による調査も限定的ではあったが、各地話者の協力を得て、2022年8月に十津川村各集落、2023年3月に上北山村、和歌山県田辺市で実施することができた。このため、現時点での進捗状況は予想から大きく後退、逸脱してはいない。 今後、さらに調査範囲を拡大し、東日本をはじめ、西日本の、いわゆる無敬語地域における面接調査を進める予定である。 また、通信による配慮表現に関する調査についても今後、本格的に進める予定であるが、2022年度内においては、まだ着手してはいず、今後、調査票の作成、調査地点の設定などを中心に調査の研究計画を立て、進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これからの研究では、無敬語地域での調査を徐々に実施する方向で研究計画を練りつつある。まず、近畿地方における無敬語地域(大阪府泉佐野市・三重県志摩市など)のほか,栃木県各地,高知県高知市など、北関東地方や四国地方で配慮表現に関する面接調査にもとづき,無敬語地域各地の比較を行い,無敬語地域にみられる共通基盤の解明を目指すとともに各地域の差異について記述を行う予定である。 また、上記の調査内容であるが,自分からの働きかけ(行為指示型:依頼・勧誘・禁止など)や,相手からの要求に対する応答(要求応答型:受諾・拒否・保留など)のほか,感謝や謝罪,褒めなどの配慮場面でどのような言語行動がみられるかの調査を行い,分析・記述を行う。対人配慮に関して話者が異なる聞き手に対し,どのような意識を有しているか,話者にきめ細かい内省を求め,無敬語地域による配慮表現の使い分けにはどのような差がみられるのか,この部分に焦点を当てた研究を行う。 社会的属性や場面差にもとづいた観点から分析を行い,無敬語地域の相互の配慮表現行動の差がどういった規範や軸にもとづき,行われているのかを吟味し,分析する。 以上の研究計画にもとづき、調査研究を着実に進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、新型コロナウイルスによる影響を受けたために、対面による聞き取り調査は予定していた地域ですべて実施することができなかった。具体的には、近隣(奈良県吉野郡の各地・和歌山県田辺市)での調査は実施できたが、遠方での調査(北関東・四国各地方)が実施できず、調査出来なかった分担者もいたため、これにかかる旅費予算が執行できず、予定していた金額とは必ず一致しなかった。また、この調査で得られるはずのデータの入力作業用にアルバイターに支払う予算も立てていたが、上記の理由により、これにかかる予算も、当該年度での執行ができなかった。
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備考 |
峪口有香子(2022)新未来とくしま講座「日本語の方言探訪~阿波弁を中心に~」(於:徳島県立総合教育センター) 峪口有香子(2022)「徳島県方言を科学する(1)」四国大学・地域科学研究会 峪口有香子(2022)「徳島県方言を科学する(2)」四国大学・地域科学研究会
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