研究課題/領域番号 |
22K00589
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
中里 理子 佐賀大学, 教育学部, 教授 (90313577)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 滑稽本 / 擬音語 / 擬態語 / 不快な音声 / 笑い声 / 口真似 / 心情や感覚 / 強調表現 |
研究実績の概要 |
滑稽本3作品(『八笑人』『和合人』『七偏人』)を取り上げ、作品中のオノマトペを擬音語・擬態語別に抽出し、地の文、ト書き、セリフの3つの部分に分けて特徴を整理した。3作品に共通する特徴としては、擬音語は嘔吐やげっぷ等の不快な音声、笑い声、表情音、三味線等の口真似が多く見られ、擬態語は力強い動きや勢いのよさを表す強調表現、外見を表す語、心情や感覚を表す語、芝居で用いる語が多かったことが挙げられる。 作品ごとに見ると、『花暦八笑人』は茶番劇が中心のためかオノマトペも芝居に関する語が多く、擬音語は拍子木など芝居で用いられる音やお囃子や三味線などを口真似する語が多い。擬態語は歩く様子など振る舞いを表す語が多く、ト書きやセリフに浄瑠璃・歌舞伎脚本に用いられていたオノマトペが多い。『滑稽和合人』は日常の悪ふざけを反映して、擬音語では人物の音声や物音、戸の開け閉めなど日常生活の音声が多く、擬態語は人物の動きや様子、心情や感覚などがオノマトペによって描写されている。『妙竹林話七偏人』は悲鳴の音声が多く落ち着かない様子や怖がる様子、驚く様子を表す擬態語が多いことと合わせて人物の性格描写の一面を担っているが、尻餅を突いたり頭をぶつけたりなど類型的動作が多い。オノマトペが言葉遊びとなる例が多くオノマトペに漢語を宛てる表記があるなどの特徴も見られた。 3作品に共通した特徴の多くは、前年度に調査した滑稽本にも該当しており、滑稽本全体に見られるオノマトペの特徴と考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、『花暦八笑人』『妙竹林話七編人』『滑稽和合人』という当時の代表的な滑稽本を調査し、擬音語・擬態語に分けて地の文・ト書き・セリフの部分ごとに整理することができた。各作品ごとに調査・考察した内容を論文にまとめ、研究成果を発表することができた。近世のオノマトペの具体的な様相を明らかにする資料を提供するという目的が達せられた。 また、3つの作品の調査からこれらに共通するオノマトペの特徴を整理することができ、前年度の滑稽本の調査内容とも見比べながら、江戸後期・末期の滑稽本のオノマトペの特徴を見出すことができた。さらに、使用されるオノマトペや表記などを総合して考察し、江戸時代後期・末期の一般的なオノマトペの使用状況の傾向を探ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2年間の研究で滑稽本のオノマトペの特徴を見出したので、それを踏まえて最終年度は滑稽本に発展する前に流行した(滑稽本の先駆けとも言える)談義本を取り上げ、オノマトペを調査する予定である。談義本は漢文訓読調の文体が残り、日常の話し言葉からはやや離れた口調となっているため、オノマトペの出現率は低いと予想される。滑稽本でオノマトペが生き生きと用いられる前に、滑稽な文章においてどのようなオノマトペが用いられていたかに焦点を当てて調査していく。さらに研究の最終年度として滑稽本に見られるオノマトペを改めて総括し、話し言葉のオノマトペと書き言葉のオノマトペの相違点と共通点、和語のオノマトペと漢語由来のオノマトペの関連についてもまとめる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
学内業務が忙しくなり、今年度の出張の機会が少なくなってしまった。国会図書館に4回出張して調査する計画を立てていたが、1回しか出張ができなかった。次年度は今年度の分も合わせて国会図書館に調査出張に行く予定を立てているので、旅費を次年度に持ち越したい。また、江戸時代の文化についての資料や、滑稽本・談義本についての資料を十分に収集することができなかったが、次年度にはそれらの資料を十分にそろえたいと考えている。資料を十分にそろえて最終年度として研究全体のまとめを行う予定である。
|