研究課題/領域番号 |
22K00591
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
勝又 隆 学習院大学, 文学部, 教授 (60587640)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 名詞述語文 / 連体修飾 / 係り結び / ゾ / 主名詞 / ソ |
研究実績の概要 |
本年度は、主に以下の二つに取り組んだ。(1)論文「『万葉集』における「連体形+名詞+ソ」文とソによる係り結び文の主題と表現性について」(『福岡教育大学国語科研究論集』2024年2月)の執筆及びそれを踏まえた「連体形+名詞+ソ(ゾ)」文の史的変遷に関する調査と考察。(2)口頭発表「中古散文における「連体形+名詞+ゾ/ナリ」文の特徴について」(第230回青葉ことばの会(学習院大学/オンライン同時配信、2024年3月23日))の実施及び、それを踏まえたモノゾ文とモノナリ文の各種構文が成立する経緯に関する考察。 (1)の論文では、『万葉集』を調査対象として、ソによる係り結び文と「連体形+名詞+ソ」文の主題、つまり、その文が「何を説明している文なのか」に着目し、ソによる係り結び文はその事柄が「どういう事態なのか」を説明する構文であり、「連体形+名詞+ソ」文はその物(者)が「どういう物なのか」について説明する構文であると主張した。それを踏まえて、史的変遷についても考察するために、中古の「連体形+名詞+ゾ」による調査を進めた。その成果の一部は(2)に反映されている。 (2)の口頭発表では、平安時代における「連体形+名詞+ゾ/ナリ」文の述語名詞に前接する助辞(助動詞)が、ゾ・ナリと名詞の組み合わせによって分布の違いが観察される現象の存在を指摘し、特に、ベキコトゾ・ベキコトナリ・ベキモノナリ、ムモノゾという形式に注目した。このうち、ムモノゾ以外は推量と当為の二つの用法が見られたが、ムモノゾは推量用法のみが見られ、ム単独であれば存在する意志や勧誘の用法は確認できなかった。その理由について、ムの意志や勧誘の用法の人称が限定されることが、ムモノゾが推量に限定される要因であると主張した。また、奈良時代のムモノゾには意志用法が見られることも指摘し、通時的な考察の必要性も指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、古代日本語における名詞性述語文に関する通時的な研究である。本年度は上代(奈良時代)に関しては、「連体形+名詞+ソ」文と、ソによる係り結び文の違いについて調査・考察を行い、一定の成果が得られた。中古(平安時代)についても同様の構文が見られるため、どのような変化があるのか(あるいは無いのか)を調査・考察するための基準が得られたと言える。また、中古に関しては、「連体形+名詞+ゾ」文と「連体形+名詞+ナリ」文の共通点と相違点を調べるために、名詞に前接する要素の分布について調査し、名詞とゾ・ナリそれぞれの組み合わせによる分布の違いが見られることを指摘した。この点に関しては、それ自体が興味深い現象であり、今後、さらにさまざまな観点からこの分布自体を分析したり、ある組み合わせが見られる/見られないという違いが生じる理由について、構文的な理由なのか、構成要素それぞれの持つ意味の組み合わせから説明がつく現象なのか、そしてそれは通時的な変化が関わるのか、といった点について調査と考察を進めていく足がかりができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
(1)中古(平安時代)における「連体形+名詞+ゾ」文とゾによる係り結び文の共通点と相違点について調査・考察を行う。 (2)「連体形+名詞+ゾ・ナリ」文の名詞に前接する要素の分析に、ある前接要素にはどのような名詞が現れるか、という観点も加え、また文体差に関しても調査を行う。 (3)「連体形+名詞+カナ」のような、平叙文ではなく「喚体」と説明される文についても通時的な考察を行い、ゾやナリによる平叙文とされる名詞述語文との共通点と相違点について考察する。 (4)中古における準体句が係助詞ゾ・コソに前接する係り結び文について、その表現性や発話意図、主題などの観点から共通点と相違点について明らかにし、上代のソ・コソによる係り結び構文との違いについて考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症流行の影響がまだ残っており、一部の学会が引き続きオンラインで行われるなどしたため、旅費を必要な書籍の購入に充てるなどして対応したが、前年度からの繰り越しがあったこともあって残額が発生し、再度次年度に繰り越す経費が生じた。2024年度は通常の対面形式で行われる学会も増えたため、旅費に使用する他、新規に刊行される関連の研究書や資料(書籍)の購入にも使用する。
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