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2022 年度 実施状況報告書

日中における言文一致の語彙的基盤に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K00597
研究機関関西大学

研究代表者

沈 国威  関西大学, 外国語学部, 教授 (50258125)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード言文一致 / 二字漢語 / 学習語彙 / 語彙力 / 言語の近代化 / サ変動詞語幹 / 形容動詞 / 国語辞典
研究実績の概要

令和4年度には、学術論文4編を発表し、著書2冊を刊行した。また海外招待講演を1回含め、学会発表を7回行った。論文「中国語の近代性と『英華大辞典』(1908)」は、日本の『新訳英和辞典』(1902)より訳語を全面的に取り入れた『英華大辞典』が中国語の近代化にどんな貢献をしたかを分析するものである。これにより日本語の関与の実態が明らかになった。著書『科学』は、概念史という視角から執筆した書物ではあるが、「科学」がscienceの訳語として成立した歴史を解明しただけでなく、関連語彙の整理、科学叙述の展開における語彙的基盤まで論じている。さらに著書『語彙力の獲得』においては、語彙力は、異なるもの・ことの名前をどれだけ言えるか、同じもの・ことの異なる名前をどれだけ言えるかと定義し、漢字文化圏における近代語の形成・交流という歴史的なまなざしから、語彙力の本質とその獲得法を分かりやすく説明している。議論はまた学習語彙の重要性と語彙力の獲得に貢献するシソーラスの役割に及んでいる。2022年10月、イタリアのVilla Vigoniに開催されたSinology networks: interdisciplinary spaces for China studiesと題する国際シンポジウムでは、「知識架構與術語的体系性」(知識の構造と学術用語の体系性について)という講演を行い、西洋の新知識の体系性とそれを伝えようとする訳語との間の関連性を分析した。参加者と知識の移動に対する言語面の対応法を議論した。2022年度の研究は、日本より20年余り遅れてスタートした中国の言文一致が如何に日本の語彙的資源を利用したかを中心に考察してきた。二字語という共通項存在するために日本資源の利用が可能、かつスムーズに行われたことを確認した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

2022年度から学習語彙の視点から日中二字同形語を整理している。中国の『国際中文教育語彙リスト』にある11092語から同形語3785語を選定した。この3785語は、東アジア共通学習語彙と考えている。東アジア共通とは、日本語、中国語だけではなく、韓国語、ベトナム語においても学校教育の環境で使用されていると推定されている。確認するために同言語を母語とする留学生に依頼しているところである。上記のリストにある語について、『言海』(1888-1891)、『新訳英和辞典』(1902)、『大言海』(1932-1935)にて収録の有無を調査している。これにより日本語における当該の定着をある程度把握できるからである。調査結果は、さらなる語誌記述の基礎資料になるであろう。去年からパイロット調査として、同形語500語について、日本語と中国語において、意味・用法・文体の面で異同が存在しているか否かを考察している。これは日本語教育、或いは中国語教育に大いに寄与する基礎作業ではあるが、筆者としては、同形語は、日中における近代語としての形成史を記述することは、もっと重要と認識している。上記の作業は、目下執筆している「東アジア共通学習語彙の生成と異化」という論文の基礎資料となる。

今後の研究の推進方策

本研究計画の目的は、近代以降発生した科学叙述を目的とした言語活動には、語彙的な基盤が必須であり、その形成史を明らかにする必要があるという問題意識から、言文一致がなぜ問題となったのか、文学以外の動機付けはないのかという問いに答えるためである。言文一致運動は、近代の言語事件として、日本だけでなく、東アジア諸国にも波及した。これは、言語に関する近代的理念のみならず、語彙の提供によって実現した影響である。所定の目的を達成するために、語源探索、語誌記述、学習語彙(academic word)成立史の考察といった角度からのアプローチが必要である。2022年度は、既発表論文、著書と学会発表などの成果からも分かるようにから学習語彙(academic word)成立史とその全容把握に多くの時間を割いていた。2023年度は、キーワードの語源探索、語誌記述を含め、総合的に進めていく予定である。近代語彙史の研究では、個々の語に関する考察が大切であるが、語彙体系の近代化という大所高所の視点に立つことも重要である。このように言文一致の語彙的基盤の解明を目指す本研究は、同時に日本の「言文一致」が中国を始め、漢字文化圏に如何に影響を及ぼしたかを明らかにする上においても基礎的な研究であると考えている。

次年度使用額が生じた理由

2022年度では2210円が残りましたが、少額ですし、無理に使い切ることをしませんでした。残額を2023年度の図書費に入れて、使用したいと思う。

  • 研究成果

    (18件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] フランクフルト大学/ハイデルベルク大学(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      フランクフルト大学/ハイデルベルク大学
  • [国際共同研究] ローマ大学(イタリア)

    • 国名
      イタリア
    • 外国機関名
      ローマ大学
  • [国際共同研究] 北京外国語大学/上海復旦大学(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      北京外国語大学/上海復旦大学
  • [国際共同研究] 台湾中央研究院近代史研究所/台湾国立政治大学(その他の国・地域)

    • 国名
      その他の国・地域
    • 外国機関名
      台湾中央研究院近代史研究所/台湾国立政治大学
  • [雑誌論文] 近代翻訳史における厳復の「信達雅」2022

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 雑誌名

      東西学術研究所紀要

      巻: 55 ページ: 3-41

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 中国語の近代性と『英華大辞典』(1908)2022

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 雑誌名

      東西学術研究所成立70周年記念論文集

      巻: non ページ: 1-20

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 概念史研究的詞彙史視角與数字資源2022

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 雑誌名

      KU-ORCASが開く デジタル化時代の東アジア文化研究

      巻: non ページ: 1-10

  • [雑誌論文] 近代翻訳史中的“信達雅”: 翻訳規範確立的程途2022

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 雑誌名

      亜洲概念史研究

      巻: 9 ページ: 85-125

    • 査読あり
  • [学会発表] 文化交渉學研究的基礎資料:辭典2022

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 学会等名
      文化交渉学会第14回学術大会(韓国啓明大学校オンライン)
    • 国際学会
  • [学会発表] 區別性與詞語密度:章太炎及厳復的誤區2022

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 学会等名
      第七回文献語言学国際学術論壇(鄭州大学オンライン)
    • 国際学会
  • [学会発表] 自西徂東與西学由東方来2022

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 学会等名
      2022北京洪堡論壇-全球知識網絡的建立:19-20世紀的知識史與中国(北京外国語大学オンライン)
    • 国際学会
  • [学会発表] 知識架構與術語的体系性2022

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 学会等名
      Sinology networks: interdisciplinary spaces for China studies (II) Villa Vigoni - Centro italo-tedesco per il dialogo europeo
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 訳者必須DONG小学?2022

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 学会等名
      第三回近代東西語言接触研究学術会議(慶星大学韓国漢字研究所)
    • 国際学会
  • [学会発表] 如何「有作于新名」?『正名』から『訂文』まで2022

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 学会等名
      関西大学東西研13回研究例会
  • [学会発表] 近代術語訳製上的単義性和体系性2022

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 学会等名
      第一回中国近代翻訳史国際高層論壇 湖南科技大学オンライン
    • 国際学会
  • [図書] 科学2023

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 総ページ数
      179
    • 出版者
      江蘇人民出版社
    • ISBN
      978-7-214-24891-6
  • [図書] 語彙力の獲得2023

    • 著者名/発表者名
      沈国威
    • 総ページ数
      230
    • 出版者
      関西大学出版部
    • ISBN
      978-4-87354-767-1
  • [備考] 沈国威研究室

    • URL

      http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~shkky/

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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