研究課題/領域番号 |
22K00597
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
沈 国威 関西大学, 外国語学部, 教授 (50258125)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 言文一致 / 二字漢語 / 学習語彙 / 語彙力 / 言語の近代化 / 語基 / 国語辞典 / 接辞 |
研究実績の概要 |
令和5年度には学術論文5編を発表しており、また海外招待講演、レクチャーを含め、研究発表を27回行った。既発表論文のうち「東アジア共通国際語の研究:序説」は、東洋では漢字を用いて西洋の近代的な知識体系を受け入れた際、漢字文化圏諸語の語彙体系に「東アジア共通国際語」という語彙群が形成されており、中日韓越の四言語における東アジア共通国際語は「同形・同音・同意・同訳」という特徴を有しているとし、「定量、定性、語源、類義分析」の四側面からこの国際語を研究すべきだと論じている。検閲のため同時期に刊行された「区別性與詞語密度:章太炎及厳復的誤区」と「従Graduated Reading; Comprising a Circle of Knowledge, 1848到『智環啓蒙塾課初歩』(1856)」という2編の論文では、科学を内容とする言語活動における語彙基盤の整備問題を取り上げ、その歴史と日中間の相互影響を論じるものである。「Distinguishing between Early Modern and Modern Chinese Lexicons: Mandarin’s journey to becoming a national language」は、アメリカ中国語学会の要請に応じて執筆したものであり、東アジアでは漢字二字語と言文一致の関係を新しい角度から考察を加えている。2023年度の研究は、2022年度に続き、日本より20年余り遅れてスタートした中国の言文一致が如何に日本の語彙的資源を利用したかを中心に考察している。漢字二字語という共通項が存在するため日本資源の利用が可能、かつスムーズに行われたことを史実と理論面から実証した。特に「東アジア共通国際語」という新しい概念の提起は、研究の深化に寄与するものである。 口頭発表では、主に日中間の言語接触と語彙交流を取り上げている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度は、引き続き学習語彙の視点から日中二字同形語を整理している。前年度では中国の『国際中文教育語彙リスト』にある11092語から日中同形語3785語を選定しており、この3785語は、東アジア共通学習語彙と考えている。韓国語、ベトナム語を母語とする留学生に確認してもらった結果、この3785語の大半は、日本語、中国語だけではなく、韓国語、ベトナム語においても学校教育の環境で使用されていると判明した。上記のリストにある語について、『言海』(1888-1891)、『新訳英和辞典』(1902)、『大言海』(1932-1935)にて収録の有無を調査している。これにより日本語における当該の定着をある程度把握できるからである。調査結果は、さらなる語誌記述の基礎資料になるであろう。2022年からパイロット調査として、同形語500語について、日本語と中国語において、意味・用法・文体の面で異同が存在しているか否かを考察している。これは日本語教育、或いは中国語教育に大いに寄与する基礎作業ではあるが、筆者としては、同形語は、日中における近代語としての形成史を記述することは、もっと重要と認識している。上記の作業は、既発表の論文「東アジア共通国際語の研究:序説」の基礎資料となっている。なお、2022年から『東アジア共通学習語彙ハンドブック』を執筆しており、日中同形の学習語彙を、500語収録する予定で、「定量、定性、語源、類義分析」の四側面の中の「類義分析」を中心に記述している。将来、これをベースにし、韓国語、ベトナム語まで拡張していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の目的は、近代以降発生した科学叙述を目的とした言語活動には、語彙的な基盤が必須であり、その形成史を明らかにする必要があるという問題意識から、言文一致がなぜ問題となったのか、文学以外の動機付けはないのかという問いに答えるためである。言文一致運動は、近代の言語事件として、日本だけで なく、東アジア諸国にも波及した。これは、言語に関する近代的理念のみならず、語彙の提供によって実現した影響である。所定の目的を達成するために、語源探索、語誌記述、学習語彙(academic word)成立史の考察といった角度からのアプローチが必要である。2022、2023年度は、既発表論文、著書と学会発表などの成果からも分かるようにから学習語彙(academic word)成立史とその全容把握に多くの時間を割いていた。2024年度では、キーワードの語源探索、語誌記述を含め、総合的に進めていく予定である。近代語彙史の研究では、個々の語に関する考察が大切であるが、語彙体系の近代化という大所高所の視点に立つことも重要である。このように言文一致の語彙的基盤の解明を目指す本研究は、同時に日本の「言文一致」が中国を始め、漢字文化圏に如何に影響を及ぼしたかを明らかにする上においても基礎的な研究であると考えている。 クロス言語における漢字の造語力と理解可能性についてさらに研究を深めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度の結果報告書制作のために、少し予算を用意した。研究の成果を学会に利用していただけるよう、公開資料を作成し、広く周知させ、社会に還元しようと考えている。
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