研究課題/領域番号 |
22K00610
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
柴崎 礼士郎 明治大学, 総合数理学部, 専任教授 (50412854)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 談話標識 / 語用論標識 / 談話分析 / 構文化 / 文法化 / 英語 / 対照言語学 |
研究実績の概要 |
具体的成果は以下の通りである。主に中英語から初期近代英語にかけて使用されていた副詞iwis ‘certainly’を考察した研究論文のうち1編が採択され、2024年度に刊行予定である。同時期に発達と衰退が確認できる(it/there is) no nay ‘(it/there is) no denying’について調査し、現在論文を執筆している(ベルゲン大学Jerzy N. Nykiel准教授との共著)。また、英語定型表現研究に関する論文集『英語史における定型表現と定型性』(開拓社2023年7月)を刊行した。さらに、近代英語協会から慫慂論文執筆依頼を受け、現在Laurel J. Brinton教授(ブリティッシュ・コロンビア大学)との共著論文として執筆中であり、2024年9月の投稿を目指している。いずれも英語史における定型表現の発達と談話構造に関する研究成果である。 英語研究に加えて、ディダ語(コートジボワール)と日本語における談話研究成果も報告した。2022年8月に日本言語学会から「談話研究」の観点から認知言語学を再検討する慫慂論文の執筆依頼を受け、かつて調査に当たったディダ語の談話資料を用いた英文論文が採択刊行の運びとなった(2024年7月)。日本語については、「な否や」の歴史的機能変化を談話研究の視点から考察し、2023年9月に刊行された(CSLI Publications)。 英語、日本語、ディダ語は系統発生的に異なるものの、単文レベルではなく談話レベルで繰り返し現れる構文が定型性を帯びてくることが分かってきた。歴史言語学に軸足を置き、構文発達とその定型性を考察してきた一連の研究から、対照言語学的成果へと拡がる可能性が確認できた。時代や地域も異なる言語間に共通する比較的強固なメカニズムには、機能拡張の背景にある談話基盤性が重要なファクターであることに気付いた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、数年前に決定していた在外研究制度の恩恵を受け、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)にて研究に打ち込むことができた。同大学では多くの研究資料に触れつつ、古くからの知人と意見交換をする機会に恵まれ、研究課題を推進するにはまたと無い環境であった。 同大学のLaurel J. Brinton教授とは研究分野が同じこともあり、2023年7月にシェフィールド大学(英国)で開催された第22回国際英語歴史言語学会へも共に参加し(発表は個別)、その直後にブリュッセル自由大学(ベルギー)で開催された第18回国際語用論学会では、報告者を含む共同研究者3名が主導するパネルにてコメンテーターも務めてもらった。前者の論文は既に投稿済みであり、後者の論文集もジャーナル特集号(Russian Journal of Linguistics)へ申請して採択済である(執筆は今後)。 2023年9月には、若手研究者育成のためのイベント(日本語用論学会)にて本研究課題に基づく成果を報告し、2023年10月には国際ワークショップでの招待発表(中国広州)、2023年11月には談話研究に関する講演(中国広州, オンライン)も行った。 総合的に見て、計画以上の成果を残すことができたものと判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究を推進するためには以下の2点が考えられる。一つは、今回の研究期間中に口頭研究発表したものを論文として仕上げることである。既に論文執筆を終えて採択済あるいは投稿中のものもある。幾つかの論文は現在執筆中であり、ジャーナル特集号へ企画案を提出して採択されたものもある。 もう一つの推進方策は、本研究成果を踏まえた発展研究への準備である。具体的な方向を検討中であった2023年末に、本研究課題に基づいた講演依頼を日本英語学会から受け、2024年11月に登壇することになった(名古屋大学)。さらに、現共同研究チーム以外の研究者(Daniel Kadar教授)からジャーナル特集号(Journal of Historical Pragmatics)への執筆依頼を受けて快諾したこともあり、研究成果をいち早く公開することが可能となった。 本研究課題では、歴史言語学と談話研究を融合した方法論を用いている。しかし、歴史言語研究は世界的に減少傾向にある。他の研究分野に比して労力に見合う成果を挙げにくい談話研究も敬遠されており、両分野に跨る研究者はさらに少ないのが現状である。しかし、地道に研究活動を続けていたことが功を奏し、様々な地域で異なる言語に従事している研究者と交流を持つことができ、ワークショップやパネル発表実施へと至った。同研究手法を用いることで、英語の歴史に埋もれている重要な現象を研究しつつ、他言語との対照研究を同時進行で実施し、これまでにない研究成果を挙げていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた理由は以下の通りである。一つは、2023年度に予定していた国際ワークショップでの研究発表が招待発表扱いとなり、旅費と滞在費を開催校である中山大学(中国広州)側が負担してくれたことである。もう一つは、在外研究制度で滞在していたブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)では、最新の研究資料を電子資料として利用することができ、希少価値の高い古書も豊富に揃っていたため、書籍購入費を削減できたことである。 繰り越し分の使用計画は以下の通りである。研究最終(2025)年度には、本研究課題にとって重要な国際学会が目白押しである。特に、第23回国際英語歴史学会(2025年8月イタリア)および第19回国際語用論学会(2025年6月オーストラリア)への出張経費として使用する予定である。また、日本英文学会第97回大会(2025年5月関東圏)での国際ワークショップを申請済みである。その際に、共同研究者であるLaurel J. Brinton教授(ブリティッシュ・コロンビア大学)への招聘費として使用する計画である。
|