研究課題/領域番号 |
22K00619
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三浦 あゆみ 大阪大学, 大学院人文学研究科(言語文化学専攻), 准教授 (00706830)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 中英語 / ラテン語 / 翻訳 / 言語接触 / ウィクリフ訳聖書 |
研究実績の概要 |
本研究は、14世紀末にラテン語のウルガタ聖書から英訳されたウィクリフ訳聖書(Wycliffite Bible; WB)における語彙・文法が原典での語彙・文法から具体的にどのような影響を受けているのか、また、当時および後世の英語の語彙・文法体系にどの程度影響を与えたのかという共時的・通時的課題に着手する。複数の一次文献を活用し、WB全体を対象とした実証的な調査を行いつつ、14世紀末から現代英語までの変遷史を詳細に分析する。本研究によって、ラテン語の翻訳による影響を従来指摘されていた、あるいは、その影響が見過ごされてきた語彙・文法の実態を見直すことを目指す。 当該年度は、WBの言語研究として重要な先行文献を読み進め、WBの言語に関する基本的な理解を深めつつ、パイロット・スタディとして、「必要」を表す同時代の動詞群の選択におけるラテン語の影響に関する調査を行い、国内学会の口頭発表で成果を披露したことが主な実績として挙げられる。研究開始前はWBの語彙と文法に等しく焦点を置くことを考えていたが、先行研究を読み進める過程で、文法(特に動詞以外)の研究量が不足していることが分かり、今後の研究の方向性がより明確に定まった。また、パイロット・スタディは必ずしもWBを対象とはしていなかったが、先行研究での見解とは異なり、ラテン語からの翻訳作品における動詞の選択や用法はラテン語原典の影響に一概に帰せられるものではなく、本来語と巧みに使い分けられていたことが分かった。本研究は中英語期におけるラテン語語彙・文法の受容という、より大きな枠組みの研究の一環として行っているが、当時の英語はラテン語の語彙・文法を盲目的に取り入れていたのではなく、既存の語彙・文法体系を考慮・尊重したうえで、何をどの程度まで受容するのかが見極められていたという、前回の科研の成果をも確かめる結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当該年度は、実施期間を3年とする本研究の1年目にあたり、当初の計画では、(1) 関連文献の収集・講読、(2) WBで初出あるいは特徴的とされる語彙・文法項目の抽出、(3) 途中成果や関連内容の口頭発表・論文執筆を予定していた。学内業務の負担が著しく増えたこと、所属機関の変更に伴う諸々の作業に時間を費したこと、(3)の関連内容の口頭発表に関わる作業が当初の予定よりも多くの時間と労力を要したことなどにより、(2)のデータ抽出に従事するに至らなかったことが悔やまれる。ただし、(1)を含む基本的な研究環境の整備は年度末までに順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、関連作品での初出語彙に対するラテン語の影響を調査した論文を前所属機関の共同研究プロジェクト成果報告書に投稿する。また、前年度に口頭発表を行った「必要」を表す動詞群の競合関係とラテン語の影響に関する論文を書き上げ、中世英語英文学関係の国際誌に投稿する。 以上の執筆作業と並行して、前年度に進める予定だったWBで初出あるいは特徴的とされる語彙・文法項目の抽出作業に本格的に取り組む。オンラインのOED・MEDを検索し、WBの原文とラテン語原典の対応箇所、およびWB以降の歴史的発達に関するOEDでの情報をデータベースに随時保存する。分析時には特に次の点に注意する:(1) WBで初出または14世紀後半当時の英語ではまれな語彙・文法が見られる場合、どのような特徴や傾向が認められるか、(2) これらの語彙・文法はWB以降どのように発展したのか、(3) ラテン語の影響で誕生した、または強化されたと先行研究で言われている文法項目は、WBと原典との比較でも裏付けられるか、(4) 初期訳と後期訳とでどのような違いが見られるか。以上のデータ分析を進める中で、関連する書籍や文献を随時入手し、口頭発表や論文執筆の準備を進めたい。 今年度はデータ収集・分析や論文執筆準備作業に極力専念し、国際学会での発表は次年度に持ち越すこととしたい。前述の遅れを取り戻すようできる限り努力する所存だが、データ分析の結果や所要時間等を慎重に見極めつつ、研究期間を延長することを考えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1) 支給額を超えないように支出を慎重に管理したこと、(2) コロナ禍の影響で旅費(口頭発表はいずれもオンラインとなった)と人件費・謝金の支出が全くなかったこと、(3) 必要な文献の一部は現物の購入ではなく、前回の科研で既に入手していたもの、複写や所属機関の図書館に所蔵されているもの、インターネット上に無料公開されているもの等を活用したこと、(4) 個人のPCなど一部の備品は本研究に取り組む前の段階で揃っていたこと、(5) 実現しなかった国際学会出張のための経費を他の目的のために無理に使用せず、次年度以降に残そうと努めたことなどが挙げられる。 「今後の研究の推進方策」記載のとおり、今年度中の国際学会の現地参加は望めそうにないが、本研究に関連した内容の書籍(和書・洋書)の購入、文献の複写費、各種消耗品の購入、国内学会・研究会発表のための経費などに充てる計画でいる。国際学会への参加は次年度に複数回行いたい。既に一件の口頭発表の資格を得ている。
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