研究課題/領域番号 |
22K00732
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
松岡 洋子 岩手大学, 国際教育センター, 教授 (60344628)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 災害時異文化コミュニケーション / コミュニティキーパーソン / 仲介 / 共助力 / 人材育成 / 複言語複文化能力 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、①多文化コミュニティにおける災害時の共助機能の発動・維持に資するコミュニケーション構築に必要な能力の枠組みの提示、②体系的な人材育成の基盤の整備、という2点である。その手法として、1)多文化コミュニティにおける災害時に求められるコミュニケーション要素および阻害要因整理、2)ヨーロッパ言語共通参照枠補遺版(CEFR-CV)の「仲介」「複言語複文化能力」等の能力記述との対照・分析、3)災害時異文化間コミュニケーション構築力育成のための能力参照枠の試作および有効性の検討、という3項目を行う。 2022年度は、災害時の異文化間コミュニケーション能力に関する記録、文献調査および聞き取り調査を行い、災害時の多文化コミュニティの共助機能に資するコミュニケーション要素とその阻害要因の抽出、分析を試みた。文献については東日本大震災および熊本地震に関する記録・文献分析を行い、①情報の差異、②言語障壁、③文化背景の差異と偏見、④災害知識・経験の差異、⑤外部からの支援対応、等について、異文化間の差異を前提とした仲介が求められる状況、という5点がコミュニケーション形成に関わる要素ととして抽出された。これらの項目について、岩手県内で実施された複数の災害時外国人対応研修で提示した結果、単純な通訳等では必要な意思疎通ができないことに対する認識が深まったという意見が参加者アンケート等に見られた。また、ドイツにおいて、災害時異文化対応力トレーニングの開発者に対する聞き取り調査を行った結果、知識(理論)と実践を組合せ、経験を生かしたトレーニングが効果的であること、異文化間の課題は個別性が大きく、ステレオタイプを生じさせる危険性もあるためトレーニングでの取り上げ方に注意が必要であることなど、研修手法に関する示唆が提示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は記録・文献調査および一部の聞き取り調査(国内1件、ドイツ3件)を行い、①情報の差異、②言語障壁、③文化背景の差異と偏見、④災害知識・経験の差異、⑤外部からの支援対応、等の場面・状況での異文化対応力の項目について抽出、整理ができた。海外の聞き取り調査は先方のスケジュールの関係で1年前倒しでの実施となったが、災害時の異文化対応力要素に関する資料が先方から得られた一方、文献調査等からの項目整理作業が途中であるため、ドイツの研究者に対してオンライン等を通じた追加調査が必要となり、その依頼を行った。今回の訪問を通じてドイツの専門家とは継続的な研究協力関係が構築できた。 また、1月末には他の関連科研チームとの研究会において、CEFR-CVに見られる仲介、複言語複文化能力記述と災害時異文化対応力との関連の可能性について発表を行い、意見交換し、情報交換を継続させる契機となった。 以上のことから、計画にそった調査研究は概ね順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
多文化状況における災害時コミュニケーションに必要な要素、阻害要因等について引き続き災害時の記録集・研究等の文献調査を行い、整理を行う。また、災害時異文化対応力養成・研修に関する先行研究・実践報告等の資料調査および聞き取り調査を行い、中間報告を災害情報学会等の学会、研究会において行い意見を得ることが2023年度の計画である。また、年度内に、人材養成研修の機会を得て、本研究で整理したコミュニケーション要素の育成を目的とした内容の研修を試行し、受講者の反応を得る。さらに、ドイツをはじめとする海外の辞令についてインターネット等を通じた聞き取り調査および文献調査を継続させ、研修の内容、実施方法等に異文化性が見られるのか検討を行う。 2024年度は、災害時の異言語異文化対応人材育成の枠組みを提示し、実際の研修等で活用し、参加者の意見等を集約してその効果・課題について検討したものを、学会等で提示する。 これらの研究活動を通じ、災害時異文化対応力の要素と研修項目について整理し、国内外の研究者等を招聘し、小研究会を開催して研究成果を公開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査用モバイルPCを購入予定であったが、海外調査経費(旅費、謝金等)高騰の影響で当該経費を旅費に充当した。また、文献調査整理に係る人件費および国内調査に係る謝金について、オンラインでの資料収集が中心となったため、さらに具体詳細な資料収集を要するため、当該経費を2年目に充当する。
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