研究課題/領域番号 |
22K00746
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研究機関 | 松本大学 |
研究代表者 |
藤原 隆史 松本大学, 教育学部, 准教授 (10824097)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 前置詞in / サーストン法 / 相対的心理的距離 / イメージスキーマ |
研究実績の概要 |
2022年度の研究実績として、英語前置詞inの意味用法に関する認知意味論的研究を行い、コアミーニングと周辺的用法に関する先行研究の知見を確認し、さらに、先行研究によって分類されている意味用法が、実際の言語使用者によってどのように概念化されているかを心理実験で確かめた。前置詞inは「容器」のコアミーニングから各用法がメタファー的に拡張しているとされるが、主にinの空間用法においての意味拡張について再検討を行った。具体的には、言語的直観から「容器」に近いと感じられる用例、ランドマークによるトラジェクターの部分的内包、非典型的な有限ランドマーク、抽象度の高い容器のイメージスキーマの用法までを分析した。次に、それらの用法が実際の言語使用者によってどのように認識されているかを確認する心理実験を行い、コアミーニングと複数の周辺的用法との相対的心理的距離を明らかにした。この心理実験は、実施計画に基づいてサーストン法を用いて統計的に実験結果が処理された。すなわち、各用法の心理実験における選択率を用いて各用法の中心義からの距離を計算し定量化したうえで、得られた値を数直線上にプロットすることで各意味用法の相対的心理的距離を可視化した。さらに、前置詞inのイメージスキーマの実在性については、心理実験によって言語使用者から別のデータを収集し、統計的手法を用いて母語話者と日本語学習者の概念化の仕方の違いを分析した。具体的には、コアミーニングに近いと思われる用例とそうでない用例を実験参加者に提示し、各用例におけるランドマークが「容器」であると感じられるかどうかについて、リッカート尺度を用いて調査した。以上2つの心理実験の結果として、英語母語話者と日本語母語話者において異なる概念化のされ方があることが明らかとなった。以上の研究成果については、学会発表(2件)や論文(4件)としてすでに一部公開されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における当初の目的は、これまでの認知意味論における前置詞の意味研究において行われてきた言語学者の直観と内省に基づく研究だけでなく、それらの知見や理論を何らかの客観的な方法を用いて検証することであった。認知意味論の枠組みにおいては、前置詞のコアミーニングはイメージスキーマと呼ばれる抽象化された概念図によって表現され、そのコアミーニングから各意味用法がメタファー的に拡張しているとされている。言語事実の観察から、これらの見方は確からしいと考えられてきたが、実際に実証的に示されている例はそれほど多くないのがこれまでの現状であった。本研究の2022年度の計画としては、先行研究で言われている前置詞inの意味用法が、どの程度言語学者の直観や内省に即して確からしいかを心理実験を用いて確かめることを目標としていた。この目標について、Covid-19の影響があったが、オンラインで実施可能なアンケートによる調査方法を用いて、ある程度のデータ収集を行うことが出来た。収集したデータは、実施計画の通りサーストン法を用いて処理された。その結果、英語母語話者と日本語母語話者における前置詞inの周辺的意味用法の相対的心理的距離を可視化することが出来た。また、前置詞inのコアミーニングに関しても、英語母語話者と日本語母語話者において異なる概念化が行われている可能性があることがデータから示された。これらの成果から、一定程度英語教育に資するような示唆が得られたと考えられる。また、本研究を行う中で、課題もいくつか見えてきた。すなわち、心理実験(サーストン法)における検証可能なアイテム数(意味用法の数)が実験実施上の制約から限られること、また、得られたデータの統計的処理における数学的正しさを追求する必要があることなどである。この点については、次年度以降の課題として修正を加えながら研究を継続していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度においては、当初の計画通り主に前置詞atについて扱う。2022年度に前置詞inの研究で行ったものと概ね同様の方法で研究を進める。すなわち、先ず認知意味論の理論に基づいて前置詞atそのもののコアミーニングを明らかにし、そのコアミーニングから拡張している各意味用法を分析・分類していく。先行研究においてある程度の理論的蓄積があるが、それらを再度検証し直し、コアミーニングとその意味拡張をより精緻に分析する。一旦コアミーニングと思われる意味を確定させた後、それに基づく前置詞atのイメージスキーマの実在性について、心理実験を用いて検証する。実験では、前置詞inと同様の方法、すなわち、英語母語話者と日本語母語話者のイメージスキーマの心理的実在性をリッカート尺度で定量化する方法を用いる。その際、得られたデータを統計的に処理し、両言語の母語話者における概念化の違いを検証する。また、コアミーニングからの各意味用法の拡張と、それらの意味用法のコアミーニングからの相対的心理的距離についても、前置詞inと同様に心理実験(サーストン法)を用いて検証する。尚、この際に、2022年度に課題として浮かび上がった点、すなわち、心理実験における検証可能なアイテム数の問題とデータの統計的処理における数学的正しさについて再検討し、分析に修正を施す予定である。特に後者については、数学分野の研究者の意見を参考にしながら精緻化を行っていく予定である。さらに、それぞれの実験から得られた知見について、学会発表や学術論文の形で一般に公開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、Covid-19の影響がまだ続いており、各学会がオンラインで行われるなどしたため出張費等が未使用のままであった。2023年度については、Covid-19が感染症法上の5類相当に引き下げられたこと等から、対面による学会開催が予想される。したがって、学会発表にかかる旅費等での出費が見込まれる。尚、2023年度は既に3つの学会発表を予定しており、これらについて旅費等の支出を予定している(一部オンライン開催の可能性あり)。また、2022年度は実験協力者への謝金が想定していたものよりも安くなったため、謝金の支出額が低くなった。2023年度はさらに多くの心理実験参加者を募集することにしているため、2022年度の未使用分をこちらに繰り越す予定である。データ処理に関しては、当初の予定では2022年度に新たな作業環境を構築する予定であったが、データ収集の状況を見ながら構築を行う関係から2023年度以降に新たに環境を整備する。
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