研究課題/領域番号 |
22K00749
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
大和 隆介 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (60298370)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ナラティブ分析 / 英語学習者 / 成長過程 / 統合的コミュニケーション能力 / 動機づけ / 学習ストラテジー |
研究実績の概要 |
令和4年度は、当初の研究計画を土台として、(1)異なる分野を専攻する大学生を対象に職業観・人生観・学習観について半構造化した質問紙を用いた彼らの認識を調査し、得られたデータが英語習得にどのような影響を与えるかを検証した、さらに(2)通常の大学生とはかなり異なる志向性を持つと想定される3名の社会人(ワーキングホリデー経験者)を対象として彼らの職業観・人生観・学習観をナラティブ分析の手法を用いて分析した。その結果、前者の調査・分析においては参加者の回答内容と英語力との間には有為な関係性を認めることはできなかった。一方、後者の調査・分析においては、「報酬を得ながらの真に実践的英語使用」「周囲の人との多面的交流」「社会人としての大きなプレッシャー」等が、学習者の英語力の向上と彼らの英語観や学習観に大きな変化をもたらす可能性が示されたように思われる。この知見は、教室における英語教育の指導においても、①対象言語の本格的・実践的使用、②自己の言語学習の批判的・メタ認知的分析、③理想的L2自己の形成、④独自の学習ストラテジーの有効活用、⑤Growth Mindsetに基づく積極的コミットメントの重要性を改めて強調しているように思われる。 (1)において有為な関係を認めることができなかった原因として、本調査の参加者が想定よりも大きく下回ったことや、専攻毎の参加者数にバラつきが見られたこと、自由記述の内容に深みが欠けていたことが挙げられる。令和5年度においてはこの点を改善した調査を再度実施する予定である。また(2)については、得られた結果を令和5年度中に関係学会において発表する。尚、令和4年度末に、上記の研究課題の成果を含め、これまでの研究をまとめた学術書(『言語学習における学習ストラテジーと動機づけ:理論と実践の創造的キュレーション』)をひつじ書房から出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画とは若干異なる形で研究を遂行しているが、変更部分については、当初の予定していなかった有意義な調査協力者を得ることができたことによるものであり、本研究の学術的意義の向上に資するものと考えられる。一方,当初予定していたデータが十分に収集できなかった点は反省すべきであり、この点に留意した計画を改めて構築し、令和5年度において実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度においては、異なる専攻を持つ大学生を対象とした質問紙を用いた量的検証から、社会構成主義アプローチ(e.g., Kramsch, 2002,2008)に準拠したナラティブ分析の手法を用いて、英語学習者が将来のキャリアを意識した自律した英語学習者へと成長していく過程を分析する予定である。合わせて、英語学習の中で、学習者が主体的にキャリア形成に取り組む姿勢や自律的学習能力を習得することを可能にする言語指導の在り方についても検討する。 上記の目的を達成するために、本年度は人文・社会・自然系学部の学生を対象に彼らの学習経験およびキャリア形成に関する自己分析(ナラティブ)の特性がどのような特徴を持っているか、また彼らが語る物語(ナラティブ)の特質がその他の要素とどのような関係にあるかを検証する予定である。具体的には、学内の研究協力者と連携し、約300名の学生から質問紙調査および、必要に応じてインタビュー調査を行い、得られたデータを分析・検証する。尚、このデータ収集に関わる申請を4月初頭に勤務校の研究倫理委員会に提出し既に許可を得ており,データ収集を開始している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度から令和5年度に約250000円の研究費を繰り延べすることになった。これには以下の2つの要因がある。第1は当初予定していたデータ収集および分析に関わる経費がかなり少なくなったこと、第2は当該年度に得られた結果を発表するために学会発表を予定していたが,学会発表に値するデータが当該年度の前半になかなか得られず,これらの旅費等を次年度に繰り越したためである。 繰り越した予算については、前年度に達成できなかったデータ収集・分析のための謝金・人件費に充て、加えて現時点(令和5年3月末)までに得られた研究成果を海外も含めた学会発表を行う予定であり、その旅費・参加費等に充当する計画である。
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