令和4年度は、日本人英語学習者の英語受動態の過剰産出を現象としてとりあげ、母語知識がどの程度過剰産出の引き金となっているかを調査した。英語の自動詞構文は非能格動詞と非対格動詞に分けられ、非対格動詞はさらに自動詞/他動詞の交替用法の有無で分類される。当該年度では、これら各種自動詞構文の受け身(非能格動詞と自他交替のない非対格動詞構文においては、受け身構文の容認度が非文扱いか容認度がかなり低くなる)と日本語の「間接受動態」を英訳した文(英語には存在しないので、直訳文は非文となる)の容認度の相関関係を調べることとした。具体的な実験のデザインとしては、上記の各種英語構文パターンに錯乱文を混ぜた文法性判断テストを作成し、比較対象群としての英語のネイティブスピーカーと実験群として日本人大学生を対象に5件法を用いた容認度判定タスクを課す実験を設定した。実験結果として明らかになったことは、ネイティブスピーカーと日本人英語学習者とも間接受動態の容認度が最も低く、正しい文法判断ができていることがわかった。同様に非能格動詞構文についても両グループとも容認度が低いことがわかったが、自動詞/他動詞交替のない非対格動詞の受動文に関しては、ネイティブスピーカーは非文判断が多い一方、英語学習者は過剰に容認していることがわかった。母語知識の干渉については、間接受動態構文と非能格動詞・非対格動詞の受動態構文の容認度に弱い相関関係が観察された。
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