研究課題/領域番号 |
22K00844
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研究機関 | 女子美術大学 |
研究代表者 |
原 聖 女子美術大学, 芸術学部, 客員研究員 (20180995)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 民衆画 / 東西比較 / 詞書 / 蘇州版画 / 大津絵 / 売薬版画 / 佐野祝い絵 / 民画 |
研究実績の概要 |
本年度は3年の科研の2年目であり、昨年度に引き続き、東西比較の前提となる、各地域での民画とその詞書についての研究会を企画し、討論を行った。第1回は、6月24日、女子美杉並キャンパスにて、前回の科研の成果として前年度、2023年3月に出版した『民衆画の世界』の書評会である。小池淳一(国立歴史民俗博物館、民俗学)、渡浩一(明治大学、日本文化史)、竹下和亮(フランス近代史)の書評を聞き、討論を行った。第2回は、10月7日、宇都宮文化会館にて佐野祝い絵の研究家藤田好三のコレクションを見ながら報告を聞き、討論を行った。第3回は12月9日、小池淳一(国立歴史民俗博物館)により、「陰陽師をめぐる絵とことば」というタイトルで、陰陽師たちの絵画表現とその意味についての解説を聞き、討論を行った。第4回は2024年3月9日、女子美杉並キャンパスにて、2人の報告を聞いた。1人は三山陵(日中芸術研究会)であり、「天理図書館蔵中国民間版画の詞書きについて、及び中国民間版画研究の動向」というタイトルで、前年秋に調査した天理図書館での資料に基づいて解説を聞き、さらに中国民間版画研究の最新の動向についての報告を聞き、討論を行った。もう1人は加藤紫識(和洋大学)であり、「職・商人の信仰と図像」というタイトルで、職人や商人の守護神の図像とその意味についての解説を聞き、討論を行った。 このほか8月8日、広島県廿日市市海の見える杜美術館にて、「蘇州版画の光芒」展、翌9日、大阪中之島美術館で「民藝、美は暮らしのなかにある」展、また8月18日、群馬県高崎市タワー美術館にて、「大江戸の賑わい 幕末明治の浮世絵百年」展、翌19日、栃木県那珂川町馬頭広重美術館にて「旅する大津絵」展の見学調査を行い、さらに2024年2月17-18日、富山市郷土博物館、富山市民芸館、薬種商の館金岡邸にて売薬版画の調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続き、個別事例の検討を重点に研究会を4回、また実地による調査を1回(3箇所)、展覧会の見学調査を2回(4箇所)行った。佐野祝い絵といったこれまで一般に知られていなかった民衆画の発掘、また中国蘇州版画の欧州との関係など新たな関係の発見などがあり、充実した研究会、調査であった。しかしながら中国については実地調査をするはずであったが、できていない。ただ現地の専門家とのコンタクトはできており、我々の研究についての情報を中国の専門雑誌に載せている。 欧州についてはこちらも現地調査ができていないが、それに代わる文献の収集は進んでおり、これに基づく報告も準備中である。 東西比較については、4回にわたる研究会の折にも、また3回、7箇所にわたる実地・展覧会調査の折にも、それに心がけて調査・研究を進めることができたが、東西比較それ自体を目的とした研究集会についてはまだ行っていないので、課題として残っている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は本科研プロジェクトの最終年度であり、民衆画の詞書について、総合的な東西比較を中心に、プロジェクトを進める。4月に福島県只見町のただみ・ものとくらしのミュージアムにて、古文書における幾つかの図像を取り上げて、その解釈についての報告を聞き、討論を行う。6月には中国の蘇州版画の専門家を招聘して、おもに日本と欧州との影響関係についての報告を聞き、討議を行う。10月には、フランス国立極東学院京都支部において、本科研プロジェクトのまとめの総合討論を行う。そのために日本の各種民画、中国、韓国、ベトナム、また欧州についての専門家を研究協力者として招聘する。さらに年度末には、前回のプロジェクト(2019-21年度「民衆画の東西比較」科研)のまとめとして出版した『民衆画の世界』の続編として、民衆画の詞書についての論集の出版を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
中国、欧州における実地調査ができなかったために生じた。それを文献購入費などにあてたが、次年度に大規模なシンポジウムを予定しているため、繰り越すことにした。
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