研究課題/領域番号 |
22K00883
|
研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
吉川 敏子 奈良大学, 文学部, 教授 (40297172)
|
研究分担者 |
鷺森 浩幸 帝塚山大学, 文学部, 教授 (40441414)
吉川 真司 京都大学, 文学研究科, 教授 (00212308)
古市 晃 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (00344375)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 日本古代牧 / 近都牧 / 駅家 / 三関 / 生産牧 / 備蓄牧 / 中継牧 / 名目牧 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、平成30年度から助成を受けた基盤研究(C)「日本古代の畿内・近国における牧の総合的研究」において明らかにした「生産牧」「備蓄牧」に「中継牧」「名目牧」と類別する牧を加え、古代の牧の実態および存在意義についてより複合的に解明せんとするものである。その1年目にあたる令和4年度は「中継牧」に重点を置き、古代官道と馬の利用についての知見を得ることから研究に着手した。 研究会において、研究協力者の山中章氏より、発掘調査などによる考古学分野からの鈴鹿関・不破関の復元的研究についての発表をして頂き、軍事施設である関に伴う馬の飼育空間について意見交換し、成果をメンバーで共有した。その情報共有を踏まえて、古代山陽道の駅家である草上駅・邑智駅(兵庫県姫路市)、布勢駅(たつの市)、高田駅(上郡町)、安芸駅(広島県府中町)の各推定地を巡見し、鈴鹿関・不破関の復元案と、各駅家との立地・地形を比較検討した。 併せて、天皇の御馬を放牧したことが文献から知られる播磨国家島牧(兵庫県姫路市家島)も巡見した。既に知られるように、家島には古墳や製塩遺跡、延喜式内社があり、歴史的にも重要な意味を持つことが推量される。60疋の御馬を平安京から山陽道を通って家島へと歩かせる行列を道中で見せ、京へ向かう海上通行者に対して畿内へ入る手前で天皇の御牧を見せつけることは、天皇による示威行為に他ならない。家島は備蓄牧に類別できるが、牧には示威という機能も加味して考えることが重要との認識を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルスへの警戒から、年度中の研究会の開催頻度は少なく低調であったが、家島を含め、山陽道および駅家を巡見することができた。巡見で得た成果については、令和5年度に古市晃を中心に総括を行い、次なる課題の鈴鹿関・不破関とのより具体的な比較検討に繋げていく計画である。 御馬を放牧して、都への馬の供給の調整弁としての役割を果たした家島の巡見では、島嶼における牧の運営や存在意義を検討することができるのではないかとの手応えを得た。近世の姫路藩も家島諸島を放牧地として利用しており、島嶼における通時代的な牧の運用方法を検討するためのサンプルとなし得ることも認識した。 研究代表者は、東方ユーラシア馬文化の研究班(班長:諫早直人氏、副班長:向井佑氏氏)より招聘を受けて、本研究課題の研究成果を発表し、古代牧研究についての成果と今後の課題を共有することができた。 巡見により得た知見および他の研究会との情報交換により、イメージを膨らませ、さらなる課題を見出し、2年目以降の研究に繋げるための道筋は見出せたと考える。 なお、研究成果の【図書】にあげる『講座 畿内の古代学4 軍事と対外交渉』には、吉川真司「序論」および研究代表者の「京・畿内の変乱」が収録されている。
|
今後の研究の推進方策 |
三関のうち、発掘調査が進められている鈴鹿関・不破関を巡見し、駅家・古道の景観との比較検討を行い、研究成果を公表できる水準に高める。 「名目牧」(牧であることを建前として所有を公認された所領)については、丹波国桑田郡・船井郡にまたがる長講堂領野口庄へと転化する名目牧の野口牧、および野口駅の推定地の巡見を行い、立地・地形から交通との関係を検討し、景観復元に取り組む。 併せて、都への諸国貢繋飼馬供給の調整弁として設置された近都牧の1つである左馬寮所管の丹波国胡麻牧も巡見し、現地比定及び平安京との交通路を確認する予定である。 天皇の御馬を放牧した平安京近郊の美豆厩は、水陸両方の交通の要衝にあり、文献史料や現地踏査から、故地を絞りこみ、その存在意義を検討していく。近年、長岡京跡・淀水垂大下津町遺跡において古代に遡る所見が公表されているが、同地周辺の淀川水系の古代遺跡の情報収集にも努める。 なお、個別の牧の復元的研究と並行して、法制史料を含めた文献から、古代の馬匹利用の実態の検討も進めている。古代における馬の需要および供給体制の規模を解明し、学界に提示することにより、今後研究が行われるであろう各地の牧の復元的研究にも寄与することになると考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
大きく差額が生じたのは旅費の部分である。巡見の行き先を次年度と入れ替えたこと、参加予定者に、直前に介護の問題や、本務先の事情で参加ができなくなる事情が発生したことなどから、支出が大幅に減額することになった。多額を要する巡見(鈴鹿関・不破関を含む)を含む2回の巡見を次年度に行うため、次年度に執行する予定である。
|