研究課題/領域番号 |
22K00907
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研究機関 | 公益社団法人部落問題研究所 |
研究代表者 |
藤本 清二郎 公益社団法人部落問題研究所, その他部局等, 研究員 (40127428)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 近世行き倒れ / 移動層社会 / 流動層社会 / 民衆世界 / 乞食非人 / 欠落・風と出 / 無宿 / 順礼 |
研究実績の概要 |
研究計画に 1年目には、東日本(越後・奥州南部)にも拡げ、畿内大和を含め、地理的拡大、事例の豊富化を図る。越後国・奥州南部地域の「行き倒れ」事例分析のため、国文学研究資料所蔵文書を用いるが、すでに一部を収集済みであり、追加撮影する。また畿内の事例追加については、大和の事例追加、紀州・勢州の紀州藩領の活字史料の分析着手を掲げた。 この研究計画に従い、以下の史料収集、解読、分析、論文作成を行った。 1、奈良県立図書情報館で大和国葛下郡牧浦家文書・添上郡今西家文書等の閲覧撮影を行った(8月)。東京都立中央図書館で『雑書(南部藩家老席日記)』から関係史料を閲覧し複写した(10月・12月・2月)。国文学研究資料館で陸奥国踏瀬村箭内家文書等の閲覧と史料撮影を行った(12月・2月)。東京都立公文書館で「撰要永久録」を閲覧し複写資料を収集した。この史料収集の過程で新しく下層武家の流動的他出「風(ふ)と出」が発見された。 2、越後国頸城郡佐藤家文書など以前に撮影収集していた史料の解読を進めたが、まだ分析途中であり、現地踏査を行えていない。したがって成果は未発表。 3、活字史料を用いて、紀伊半島(紀州藩領)における17世紀段階の移動層に関する政策分析の論文を作成し、投稿した(掲載は確約済み)。中後期については未着手である。 研究計画に記した目的の1である、近世の行き倒れを生み出す村共同体につながった移動層、共同体から実質離脱した廻国者、「無宿」流動層、これらを包括する歴史概念として「流動層社会」(あるいは「流民層社会」)という仮説を提案しているが、その構造を解明するための作業を進めることができた。ただしコロナ感染症拡大のため作業が滞っている面もある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
陸奥国白河郡(現福島県)・越後国頸城郡(新潟県)の行き倒れ事例を現地踏査するべく旅費を計上していたが、4月以降年度前半期には新形コロナウィルス感染症がなお拡大傾向にあったため、出張調査が出来なかった。また史料収集・解読に作業補助者を依頼する予定であったが、都合により依頼が不可となった(人件費の支出がなかった)。このような進捗の遅れ要因が発生した。 一方、国文学研究資料館所蔵の関係史料を、予定以外の史料群についても発見し、その撮影を実施できた。また、東北地方のかかるテーマの情報入手により、計画では予定外であるが、近世の移動層社会・流動層社会を考えるにふさわしい事例を盛岡南部藩史料に見付けることが出来た。すなわち武家身分の移動は参勤交代に集約されると理解するのが通説あるが、盛岡南部藩においてはイレギュラーな移動、欠落、下級の家臣の伊勢参詣や「風(ふ)と出」と呼ばれる一時的欠落、永久の家からの脱出が頻繁に起きていた。『雑書(南部藩家老席日記)』の記録から関係記事を収集した。この分析は未だである。 進捗については、マイナスとプラスの要因があるが、調査・踏査の遅れがあり、史料解読援助等の人的な援助が得られず、分析・論文発表に至る成果が少なかったので、「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の計画としては、(予定通り)病人「救済」・死者「処理」の近世的特質、歴史的段階把握についてこれまでの研究を総括し、深めるために主として天保飢饉、天保改革後における「行き倒れ」現象を重点的に分析対象とする。天保期の画期性、その後の時代的特質に留意しつつ、城下町「行き倒れ」に視点を絞り、紀州藩和歌山・田辺・田丸における無宿の分析を行う。城下町関係史料として、紀州和歌山の『城下町警察日記』、同藩領田辺の都市史料『田辺町大帳』『田辺万代記』『紀州田辺御用留』、田丸城下町の史料集『三重県玉城町史近世史料編』などの刊本(活字史料)を入手している。領主的「救済」、民衆の対応、民衆世界の多面性(介抱・継送と排除)に留意しつつ「流動層社会(流民層社会)」の段階的変化、到達段階を解明する。 また中部・東北地方の行き倒れ・流動層に関する事例の史料分析を飛躍的に進め、複数箇所の踏査を実施し、年四半期初め・四分の二期、四分の三期に1本宛に論文発表する。3年目には以前の論文との体系性を図り、論文集が刊行できるように務める。 繰り越した人件費の支出を本次年度(2年目)に行い、収集史料の解読や活字史料のデータ入力等にアルバイト補助者を得て作業の進捗を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額約20万円は、福島県・新潟県の江戸期行き倒れ等の発生地を現地調査するべく予定していたが、コロナの感染が夏期に拡大したため、適切な時期に実施できなかったため、および史料解読を専門技術者(アルバイト)に依頼しようと考えていたが都合がつかず実施できなかったために生じた。 次年度には、未使用未使用約20万円の内約13万円に従前予定の旅費の内15万円を加え、合計約28万円を、新しく研究対象地となった岩手県を含め遠距離巡見(3回分)の旅費にあてる。その他旅費は国文学研究史料館や学会出張等の費用10万円と予定し、旅費は合計約38万円を予定する。物品費は当初の予定23万円(刊本史料集を含む図書費と消耗品)、謝金人件費は当初予定の次年度2万円に未使用約20万円の内7万円を加え合計9万円とし、その他雑費を5万円とする。
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