18世紀におけるモンゴル統合を巡る清朝とジュンガルの対立はチベット仏教世界の最大施主の地位を巡る争いとも絡んで進展していく。清朝のチベットに対する政治的・軍事的介入は最大施主の地位を安定的に確保し、モンゴル統合の優位性を維持するためのものであろう。ところが、従来の研究ではチベット支配を巡る清・ジュンガルの対立構造としてとらえてきた。これに対し、本研究は満州語・チベット語・漢文の史料を用い、18世紀のチベット政策を、対ジュンガル政策を目的とする「チベット仏教世界」の再編の一環として位置づけ、その完成に至る政治過程を明らかにするものである。 初年度である2022年度は関連する史料の収集と整理を行った。2022年10月から約1ヶ月間台湾での档案資料の調査を行った。中央研究院歴史言語研究所所蔵内閣大庫档案から関連する档案の調査を行い、高雄師範大学では台湾での研究論文の検索システムを利用して関連分野の論文をダウンロードした。国内では2回に渡り、京都大学東アジア人文情報学研究センターで『雍正朝起居注冊』『雍正朝上諭档』『乾隆朝上諭档』を閲覧し、関係する内容を調査した。web上では台湾故宮博物院の図書文献数位典藏資料庫から档案史料を集めた。現在、収集した史料と論文の内容を整理し、分析を進めている。 村上正和・相原佳之・李侑儒・豊岡康史との共著で『嘉慶維新研究』及び、「『雷塘庵主弟子記』訳註(1)」を刊行した。おもにチベットに関わる部分を担当し、その執筆への参加によって研究課題である18世紀の清朝のチベット政策を19世紀前半までの連続性を持つ政策的展開として展望していく上で重要な手がかりを獲得することができた。
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