本研究は中国古代において、もともと中国の地方・周辺の音楽に過ぎなかったものが、どのように中国王朝の「伝統文化」へと変容していったのかを『周礼』という儒教経典に注目して明らかにすることにある。 以上の内容に沿って、研究の2年目である2023年度は、なぜ南北朝において儒教経典のなかでも、特に『周礼』が重視されたのかを解明する作業に入った。 論文については、「The I-chu of 475 in the Liu Sung Dynasty: A Reconstruction of the History of the Southern Dynasties as Seen from Monographs on Rites and Music」(『Transactions of the International Conference of Eastern Studies』第67冊、2024年1月)を発表し、儀礼音楽における『周礼』採用に先立つ、元徽三年(475)の儀注の重要性について論じた。具体的にいうと、中国南朝(420~589)における『周礼』の採用は、まず儀礼音楽の骨格となる元徽三年の儀注が完成し、その上で梁武帝によって『周礼』採用がなされたことを述べた。上記は、第67回国際東方学者会議(2023年5月20日、於日本教育会館。SYMPOSIUM VI 「志」からみた漢唐間の政治文化)において行った報告を発展させ、論文化したものである。 さらに、元徽三年の儀注について『隋書』に記載がある一方、『宋書』、『南斉書』に全く言及がない点を掘り下げ、「元徽三年の儀注と『宋書』・『南斉書』の関係について」(『お茶の水史学』第67号、2024年掲載決定済)を刊行予定である。これらはいずれも本研究課題に発展させることができる成果である。
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