研究課題/領域番号 |
22K00937
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研究機関 | 公益財団法人東洋文庫 |
研究代表者 |
多々良 圭介 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 奨励研究員 (60780799)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 医療史 / 感染症 / 東洋史 / 中国 / 台湾 |
研究実績の概要 |
初年度(2022年度)において、報告者は年表の枠組み・解題作成、及び地域社会における医療制度・感染症対策の実態を解明するため、以下の2点について研究を進めた。 (1)1870年から1885年間のMedical Reportsを使い、広東(広州・海口・汕頭・北海)、福建(福州・廈門)、台湾(淡水・鷄籠/基隆・台湾府・打狗/高雄)における海関医官の活動を中心に、海関医官・清朝地方官・地域社会がいかなる関係を取り結んでいたかを検証した。海関医官は赴任地での活動を行う上で現地に病院を作る必要があったが、その際に地方官や地域社会有力者からの援助(資金面・土地確保等)を受けた。これにより、海関医官は現地滞在の西洋人治療、衛生環境の調査、検疫等の業務を進めることが可能となった。その一方で、中国人・原住民の治療や、気候変動の調査と入港する船舶への災害通達、清仏戦争時における負傷者治療や清朝軍兵営の衛生環境改善を含む、地域社会の行政運営にも関与した。これらの医官の活動は、善堂(中国人運営の慈善団体)との競争を生き抜くため、地方官や地域社会との協働を示すものであった。この内容は、東洋文庫英文紀要(Memoirs of the Research Department of the Toyo Bunko)に論文として掲載された。 (2)Medical Reportsは西洋医学による知識に基づき、東アジアで流行した感染症・疾病を分析している。しかし、当時の感染症の実態を解明するには、西洋医学が導入される以前より同地域に存在した医学、特に中国伝統医学はいかに分析していたかの検証・比較も必要となる。そのため、報告者は杏雨書屋や東洋文庫が所蔵する中国伝統医学典籍の調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年1月以降の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により、中国・台湾の所蔵機関における海外での資料調査に大きな支障が生じ、初年度に当たる2022年度も海外調査を進めることが出来なかった。以上が「やや遅れている」と判断した理由となる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究成果に基づき、2023年度は以下の研究を進めることが可能と考えている。 (1)Medical Reportsは、対象範囲は海関設置地域(中国沿海部、台湾)や周辺諸国(日本、朝鮮)を含め非常に広く、また高い権威性を有する資料である。しかし、年表作成には同時代の中国側の資料、上述の伝統医学典籍・地方志記載の疫病の記録・地方官の官箴書・上奏文を含む档案資料等、中国側の資料との比較が必要となる。 (2)中国側の資料と同様に、Medical Reports以外の外国人が残した資料、特に布教目的で中国へ来訪した宣教師の報告書との比較を行う。 これら2点を中心に研究を行うことで、中国における感染症流行とその拡大を具体的に解明することが期待される。また、2023年度は海外渡航の制限も緩和される見込みから、所蔵機関における海外での資料調査を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により、中国・台湾の所蔵機関における海外での資料調査に大きな支障が生じ、初年度に当たる2022年度も海外調査を進めることが出来なかった。今後の計画として海外調査のために使用する予定である。
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