研究課題/領域番号 |
22K00957
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
根津 由喜夫 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (50202247)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ビザンツ / アドリア海 / 中世イタリア |
研究実績の概要 |
コロナ禍がようやく終息を迎えたのを機に昨年の夏、イタリアのアドリア海沿岸部を中心に調査旅行を実施することができたことが昨年度の最大の成果と言えるだろう。この調査では、中世において海港都市として発展し、ビザンツとの関係も深かったアンコーナからリミニ、ラヴェンナに至るまでのアドリア海東岸部の都市群の史跡調査を実施し、さらには内陸部のスポレートやウルビーノなどの内陸部まで足を延ばしてビザンツとの文化的交流の形跡を調べることができた。アンコーナでは中世の港湾施設の実地調査、旧市街の中世教会の地下礼拝堂のモザイクとフレスコ画の調査等を行った。さらにアペニン山脈を越えたトスカーナ地方のアレッツォやコルトーナでは、ビザンツ帝国滅亡前後、積極的に教皇庁のビザンツ支援活動に取り組んでいだフランチェスコ修道会の政治的プログラムをその時代の教会壁画や装飾から読み取る作業を行った。とくにアレッツォの聖フランチェスコ聖堂内陣部のピエロ・デッラ・フランチェスカの大作「聖十字架伝説」を現地で詳細に観察することができたことは、今回の調査旅行の最大の成果と言えるだろう。また、フィレンツェでは、フェラーラ・フィレンツェ公会議に臨むビザンツ側代表団とそれを迎えるメディチ家の人々の姿をメディチ・リッカルディ宮殿のマギ礼拝堂のブノッツォ・ゴッツォーリのフレスコ画から確認する作業を行った。こちらも様々な歴史的人物が大画面に描き出されており、文字史料だけからはうかがい知れない当時の空気感を考察する上で貴重な情報源となることが期待される。これら現地調査の成果を先行研究と照合し、されなる精査、分析を行う作業が現在、進行しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の期間中、長く実施できなかった海外調査がようやく実施できたことの意義は大きい。2022年夏季に実施した調査旅行では、イタリアのアドリア海沿岸部を中心におよそ2週間にわたり中世からルネサンス時代の史跡や博物館等を巡り、実地調査と資料の収集に従事することができた。それらは現在、整理、分析中であり、現時点ではいまだ公表に至ってはいないが、それらについても作業は滞りなく進行しており、現状において、研究活動はおおむね順調に進捗していると判定することができるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、当初の調査旅行の順番を次年度と入れ替え、おもに南イタリアの旧ビザンツ領地域(プーリャとカラブリア)、およびアドリア海対岸のギリシア北西部イピロス地方とイオニア諸島の現地調査を重点的に行いたいと考えている。南イタリアの同地域は、イタリア本土の中でもビザンツの政治的・文化的影響が長く残存した地域であり、東方正教系の修道院の活動も盛んであったことが知られている。また、これらの地域の教会や修道院にはビザンツ・東方由来のイコンや聖遺物などが各地に伝存していることが知られており、今回はそうした東西交流の歴史的遺産を現地でつぶさに調査することが大きな目標となるであろう。一方、ローマ教会の側でも当地において絶大な威信を誇ったモンテ・カッシノ修道院も11世紀にはビザンツ密接な関係を結んでおり、東西両勢力の関係は様々な側面から看取することができる。 他方、アドリア海対岸のギリシア北西部イピロス地方とイオニア諸島については中世後期、エペイロス君侯国時代の史跡を中心に調査を進め、現地の支配エリートの存在形態や彼らの政治的イデオロギーについて考察を進めていく予定である。これらの地域ではアドリア海西岸部とは逆にイタリアからの様々な政治的・文化的影響があったことがかねて指摘されており、この旅の現地調査においても、そのあたりの状況を詳細に調査してみたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ・ウィルスの流行の影響で先行する科研の資金が一部、持ち越しもあり、そちらの消化を優先させたことがこのたび次年度使用額が発生した理由のひとつである。今年度は新型コロナの影響もほぼ終息し、研究活動も問題なくフル稼働することができるものと期待されるため、繰り越し分についても有用に活用できる者と考えている。
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