研究課題/領域番号 |
22K00962
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
中嶋 毅 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (70241495)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 在外ロシア / ロシア革命 / 道標転換派 / ウストリャーロフ / 一国社会主義 / 共産党 / スターリン |
研究実績の概要 |
本研究は、1917年の十月革命に反対して亡命したロシア人が形成した「在外ロシア」がソヴィエト・ロシアに対して示した政治的態度の転換過程を、同時代史料に基づいて実証的に明らかにすることを課題とした。本年度は、東アジアにおいて亡命ロシア人の拠点となったハルビンにおける在外ロシア世界の形成過程を跡付け、在外ロシア世界の多面的構造を明らかにすることを目指した。 この課題の遂行を通じて、以下のような諸点を明らかにすることができた。(1)1917年のロシア十月革命後に起こった国内戦期に「白衛派の牙城」となった中東鉄道(東支鉄道)付属地のロシア人社会は、白衛派の拠点となった他のロシア地方都市と同様に多元的構成を有しており、そこで生じた社会的経済的混乱もまた、革命後のロシア地方都市におけるそれと一定の共通性を示していた。(2)中東鉄道の企業城下町であったハルビンでは、ボリシェヴィキが鉄道労働者の経済的不満をストへと誘導しており、鉄道を用いた反ボリシェヴィキ軍部隊の移動を阻止するというソヴィエト側の目的のために、ボリシェヴィキは鉄道ストを有効に利用することができた。鉄道輸送の軍事的意義は、白衛派・連合国双方の軍当局者にとって無視しえない大きな力を、鉄道労働者に与えることになった。(3)旧ロシア勢力による中東鉄道の管理運営の実績、中国側による旧ロシア勢力利用と諸権利回収への志向、そして連合国の利害という相異なる要素の鼎立が、国家の庇護を失った中東鉄道付属地における不安定なロシア権益の維持を可能にした最大の要因であった。(4)連合国が支援したコルチャーク政権の解体は、この三者の均衡を突き崩すことになった。連合国の干渉勢力が白衛派への支援から手を引き、中東鉄道付属地が孤立状態に陥ったとき、中国側による権利回収に向けた動きが本格化していった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロシア革命後に多数の知識人が亡命したハルビンにおける在外ロシア世界の形成過程を一定程度明らかにして、論文として発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果をふまえて、ハルビンに亡命した知識人集団が展開した具体的活動について、道標転換派の提唱者ウストリャーロフが主に従事した教育活動・評論活動を中心に、同時代刊行物を用いて実証的に分析する。この作業とあわせて、ハルビンに亡命する以前のウストリャーロフの足跡をたどり、道標転換派の思想形成にいたる過程を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定のロシア語図書が年度内に到着しないために次年度使用額が生じた。繰越分はチェコ共和国スラブ図書館所蔵の同時代刊行物の複写物購入に充当することを計画している。
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