研究課題/領域番号 |
22K00990
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
長崎 潤一 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70198307)
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研究分担者 |
高倉 純 北海道大学, 埋蔵文化財調査センター, 助教 (30344534)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有舌尖頭器石器群 / 細石刃石器群 / 縄文時代草創期 / 旧石器時代終末期 / 神子柴・長者久保系石器群 / 立川ポイント |
研究実績の概要 |
2022年度は北海道における細石刃石器群から有舌尖頭器石器群の変遷についてを明らかにするために、資料調査と遺跡発掘調査を行った。資料調査は北海道ニセコ町、蘭越町、千歳市、帯広市、倶知安町、新潟県十日町、津南町、長野県野尻湖周辺に所在する当該期の遺跡(西富遺跡、立川遺跡、オサツ18遺跡、祝梅上層遺跡、帯広空港南遺跡、峠下遺跡等)の出土資料の写真撮影、計測を実施した。立川1遺跡の1958年調査資料の実見では、未報告の神子柴・長者久保系石斧破片、広郷型細石刃核石器群の細石刃を確認することができたのは石器群比較の点から重要な知見となった。またパレット形台石に赤色顔料の付着を確認したことも有意義だった。 また当該期石器群の出土層位、火山灰層位、炭素年代測定、石器組成の把握のため、蘭越町立川1遺跡の発掘調査を2回(4月末~5月初頭、10月末~11月初頭)実施した。この発掘調査では、有舌尖頭器、細石刃、彫器、掻器、削器等が出土した。有舌尖頭器については製作址を検出し、その石器製作を明らかにする資料を得た。また耕作土中から薄手で無紋の土器細片を40点程検出した。この土器には付着炭化物が無く炭素年代を計測することは出来なかったが、出土状況や土器の様相から縄文草創期土器と推測された。道南部での草創期土器は出土例が無く、貴重な資料となった。また1958年の同遺跡発掘で有舌尖頭器石器群と共伴するとされた蘭越型細石刃核石器群も出土し、やや出土層位を異にする状況が確認された。1958年調査で石器群の下位で確認されていた火山灰層はクッタラ2(5万年前)であることが確認され、羊蹄山火山灰検出のためのサンプリングも行った。 立川1遺跡の発掘は短期間の調査ではあったがその成果は極めて大きく、石器包含層が良好に残存し、重要な資料が埋蔵されていることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一に函館市博物館所蔵の立川遺跡1958・1959年発掘資料の悉皆資料調査によって、多くの知見を得ることができた。特に従来未検出だった石器(神子柴・長者久保系刃部磨製石斧片、広郷型細石刃)を細片類が収納された袋から発見できた意義は大きい。 第二に立川1遺跡の2回の発掘調査によって、石器群がまだ良好な堆積状況で残されていることが確認できたことの意義は大きい。 第三に発掘調査で有舌尖頭器製作址が発見できたことは、当初から予期していたわけではないが、その製作過程を復元するための資料を得られ、大きな成果となった。また帯広市空港南遺跡で極めて近似した内容の資料が見つかり、その比較研究という新たな課題を見出すことができた。 第四に立川1遺跡の発掘調査で土器細片を検出できた意義を強調しておきたい。これまで道内では道東部での草創期土器発見例(帯広市大正3遺跡、遠軽町タチカルシュナイ遺跡)はあるが、道央・道南ではわずかに江別市大麻1遺跡での数点の出土例があるだけであった。本研究費による発掘調査で細片とはいえ草創期土器と考えられる資料が得られたのは、予期していなかったが大きな成果であり、年代測定を含め今後の研究で詳細な所属時期を検討し、当該土器と共伴する石器群についても調査で明らかにしたい。 上記のように当該期の研究においての立川1遺跡の重要性が確認でき、予期しない成果も次々と明らかとなり、極めて良好に本研究は進捗しているが、一方で当初計画では見込んでいなかった研究費用(土器年代推定のための理化学分析、羊蹄山火山灰のテフラ分析、石器石材の原産地分析等)が必要となりそうで悩ましい。
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今後の研究の推進方策 |
北海道、新潟県での資料調査では従来指摘されていなかった石器群についても明らかにできており、2023年度以降も他県での資料調査を進めていきたい。 立川1遺跡の発掘調査では当初予想よりも重要な知見が多く得られつつある。2023年度も発掘調査を進め、細石刃石器群から有舌尖頭器石器群への変遷の様相を探りたいと考えている。しかし、研究体制の構築の点で、現在の研究分担者は石器研究の考古学者1名のみであり、理化学分析、土器研究の面で手薄であることが明らかである。炭素年代測定、熱ルミネッセンス年代測定、石器群の火山灰編年の確立、縄文草創期土器研究者を含めた研究体制構築が必要となっている。研究協力者としてこうした分野の専門家を加えることを検討している。 また立川1遺跡の発掘調査は当該期の研究を進めるにあたり重要であるものの、予想よりも広域に石器群が分布しており、かつ良好な状態で遺物が包含されているため、その全体像を明らかにするために調査を継続する必要がある。しかし本研究計画では研究年度が短かいかもしれない。 こうした点を考えると、分担研究者を増やして研究体制を大きくした次の研究計画の立案を見据えつつ、本研究をその準備的研究として位置づけなおす必要があると考えている。
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