研究課題
和歌山平野の沿岸部に発達する浜堤・砂丘列の形成過程を明らかにすることを当年度の主要テーマとして、当初計画の和歌川河口の砂嘴や砂州を外し、紀の川河口両岸に発達する浜堤・砂丘列に絞って調査を行った.6月に前年度OSL私費調査地点の水準測量と当年度OSL調査候補地の選定、10月までに前年度7地点の試料のOSL年代測定を行い、浜堤・砂丘列形成過程の検討、その検討結果を受けて調査地の絞り込みと再下見、土地利用交渉、12月に4地点でOSL試料と粒度分析試料の採取調査、引き続く室内の年代測定と粒度分析、2月に年代測定結果の速報値にもとづく浜堤・砂丘列形成過程の再検討を行った.以上の研究のうち、OSL年代測定と粒度分析は研究分担者が行い、現地の準備作業は研究代表者と研究協力者が分担、現地調査と浜堤形成過程の検討は全員で行った.OSL年代にもとづく浜堤・砂丘の形成過程には、紀の川の北岸と南岸で明瞭な違いが認められた.紀の川北岸に発達する4列の浜堤・砂丘は、陸側から海側へ、弥生時代から江戸期にかけて波浪卓越型海岸に発達した前進型の浜堤・砂丘であることが明らかとなった.一方、紀の川南岸では、陸側に発達した吹上砂丘が室町後期~江戸初期に肥大した上方付加型の砂丘であることが判明し、その北西部の雄湊砂丘でも、厚い風成砂層の下位に吹上遺跡の発掘で存在が知られていた室町前期以前の埋没土壌を確認した.これに対して海側の砂山砂丘や水軒浜堤・砂丘などは、主として室町期以降の形成であることが明確になった.また、以上のOSL関連の作業と並行して、考古遺跡の発掘成果の収集と、「紀伊続風土記」中の関連記事の口語訳や絵図などの収集を行った.
2: おおむね順調に進展している
OSL調査は、前年度私費調査の採取試料を含めて11浜堤・砂丘の56試料の年代測定を行い、浜堤・砂丘の形成過程に関する従来知られていなかった新知見を得た.この点は当初計画通りの進捗であり、その成果は当初の想定以上である.しかし、この成果に伴い、吹上遺跡の発掘で見つかっていた埋没土壌の広がりやその下位の浜堤・砂丘の年代、縄文海進期の砂浜海岸の年代などに新たな課題が生じ、当初予定していなかった次年度に補足調査が必要となった.考古学と文献史学上の調査は、沿岸地域の遺跡の発掘成果の収集と近世の絵図は概ね収集できた.しかし、「紀伊続風土記」中の関連記事の口語訳は、浜堤・砂丘の分布地域に絞って進めることにしたが、近世文書に特有の用語法や語彙などの専門知識が必要な段階になっている.
OSL調査は補足調査として吹上遺跡近辺で埋没土壌の確認と下位の砂丘層の調査、縄文海進期の砂浜海岸の調査、および吹上砂丘最高地点付近で追加試料の採取等を行い、年代測定を行う.また、これと並行して行ってきた粒度分析結果を整理し、海岸線の移動や風向・風力の時期的変化を検討する.これら地質学的データをもとに、浜堤・砂丘の形成過程を古地理図として復元する.加えて、埋没土壌の土壌分析を行い、植生環境の推定資料とする.考古学と文献史学上の調査は継続して行い、浜堤・砂丘の形成に関する記事を集め、地質学的調査の裏付けとする.特に裏付けとして不可欠な史料である「紀伊続風土記」の口語訳は、近世文書の専門家のアドバイスを受けながらすすめることにした.さらに、復元できた古地理図に遺跡や遺構を図示し、砂丘や平野への人間進出の状況を描画することを最終目標とする.
12月調査の雄湊砂丘の地表下8m前後に、残存状況のよい埋没土壌A~B層を確認し、採取した.この土壌の腐植酸形態分析と有機炭素量分析、植物珪酸体分析、14C年代測定等を行うことは、当該地域の砂丘形成過程の復元に極めて有効で精度の高い植生環境と年代の推定が可能と考えられた.しかし、これらの分析等は自前で実施できる能力はなく、専門の分析業者に委託する必要があった.12月調査の終了時点で、研究代表者の使用可能残額が17万円未満であり、有効な分析等を委託するには大幅に不足していた.そこで、次年度助成金の支出予定項目の中から微化石分析委託費30万円の一部を合算して使用することとした.
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 6件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Regional Environmental Change
巻: 22 ページ: 122(論文番号のみ)
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Luminescence dating of a sedimentary sequence in the eastern North Yellow Sea
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