研究課題/領域番号 |
22K01010
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研究機関 | 一般財団法人大阪市文化財協会 |
研究代表者 |
趙 哲済 一般財団法人大阪市文化財協会, 学芸部門, 学芸員 (20344369)
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研究分担者 |
田村 亨 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 上級主任研究員 (10392630)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | OSL年代 / 和歌山平野 / 波浪卓越型海岸 / 砂丘列 / 浜提 / 吹上遺跡 / 紀伊続風土記 |
研究実績の概要 |
和歌山平野の沿岸部に発達する浜堤・砂丘列の形成過程を明らかにすることを主要テーマとして、今年度は紀の川南岸の砂丘列群と紀伊山脈の麓に沿う海浜の形成時期を得るために3地点でOSL年代用の17試料を採取した.前年度までの試料を含めた13地点・82試料から測定したOSL年代から、次の諸成果が得られている. 弥生前期~室町中期頃の埋没古土壌の形成時期をはさんで、浜提・砂丘列ののOSL年代に不連続があり、形成過程も異なることが把握できた.すなわち、紀の川南岸の吹上砂丘の下部は縄文中期には現・伏虎山などの基盤岩類の高まりに取りつく島として発達し、古土壌形成期に飛砂の堆積はほぼ休止した.一方、北岸では飛砂が約1000年前の平安時代中期頃まで引き続き堆積し、古屋1列は弥生前期に、古屋2列は弥生後半か古墳時代には砂嘴として西の基盤山地から東に延びていたと考えられる.その後、古屋の砂丘列の前進速度は急減するとともに、約650年前の室町中期から約500年前の室町後期に古屋2列と吹上砂丘が急成長して高くなった.さらに、北岸・南岸とも室町後期以降に海側の古屋3・4列や砂山・掘止・高山・水兼などの砂丘列が発達したと考えられる.なお、今年度の測定年代は概査の段階であり、今後、精査して精度を高める予定である.また、粒度分析試料は300点近くあり、現在分析を進めている. 考古学と文献史学上の調査は、沿岸地域の遺跡の発掘成果の収集と近世の絵図の収集を終え、地域ごとの検討の段階に入っている.また、『紀伊続風土記』の口語訳は浜堤・砂丘の分布地域が概ね終了し、地形変化の画期を中心に解読を始めており、例えば洪水や津波によって紀の川河口が変貌した時期や、水兼川の河口から現河口へ変化した時期と、古屋3列が発達し分岐した500~400年前とが重なることがわかってきており、古地理復元に新たな視点を提供している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は紀の川南岸に発達する浜堤・砂丘列の追加調査と、紀伊山脈に沿う古い海浜の調査を行った.4・5月の調査地の土地利用交渉を経て、5月に3地点でOSL試料採取調査を実施し、7月には前年度を含めた調査地の標高測量を実施した.野外調査はこれで終了した.また、9月にOSL年代を主題として昨年度の調査結果を学会発表した. 野外調査と並行して、室内ではOSL年代測定や粒度分析をはじめ、ボーリング資料による沖積層の堆積状況の検討、遺跡調査成果にもとづく沖積層の表層部の堆積環境の変化と人間活動の推移の検討、古絵図から読み取れる古地理情報の収集を行った.以上の成果をまとめて10月に成果検討会を実施した.粒度分析は継続中である. さらに、19世紀前半に編集された『紀伊続風土記』の口語訳の実施と記事から読み取られる古地理情報の収集は、毎月読み合わせ会を継続的に実施し、浜提砂丘列にかかわる記事の口語訳は終了したが、翻訳量が膨大であったため、検討会は翌年度4月に繰り下げて実施した. 以上の研究のうち、OSL年代測定と粒度分析は研究分担者1名が行い、現地の準備作業は研究代表者と研究協力者9名が分担、考古・文献・古絵図にかかわる資料収集は研究協力者が分担して行い、現地調査およびこれにもとづく浜堤形成過程の検討は全員で行った.
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今後の研究の推進方策 |
本研究最終の2024年度は、OSL年代、ボーリング資料にもとづく地下地質、浜提・砂丘堆積物の粒度などの地質学的データを柱にして、縄文海進最高潮期以降の浜堤・砂丘の形成過程を古地理図として復元する.復元に当たっては、浜堤・砂丘の形成と土地利用に関する考古学の遺跡情報や、『紀伊続風土記』をはじめとする文献史学上の記事の解読にもとづき、時期ごとの土地条件や新たな遺跡などの古社会地理の要素を書き加え、平野や砂丘への人間進出の状況を描画することを最終目標とする. 成果の主要な内容は夏に学会発表を行い、秋に論文投稿を予定している.また、冬には、和歌山在住の研究者や市民を対象に成果発表のための講演会を和歌山市に於いて実施する. なお、膨大な量の『紀伊続風土記』の口語訳は、和歌山平野の考古学や文献史学の研究に有益であると考えられることから、古地理図や分析データとともに、次年度以降に印刷物としてまとめるため、研究成果公開促進費の申請を検討している.
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