研究課題/領域番号 |
22K01020
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研究機関 | 千葉県立中央博物館 |
研究代表者 |
奥野 淳兒 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員(移行) (60280749)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 図鑑 / 系譜 / 博学連携 / 地域 |
研究実績の概要 |
千葉県御宿町には、地元の基幹産業であるイセエビ漁に関連した地元マスコットキャラクター「エビアミーゴ」が存在する。御宿在住の児童に対し、地元に親しみ、深い理解へ繋がる活動を「エビアミーゴのいる御宿町には何種類のエビがいるのか?」を問うことで展開した。令和5年6月に御宿町公民館の主催した川の生物観察会、同月に御宿小学校の磯の生物観察事前学習会、7月に御宿小学校が主宰した磯の生物観察会に講師として参加し、エビについて着目するよう話題提供した。特に事前学習会とその後の磯での観察会では効果が見られ、積極的にエビを探す児童が多く見られた。 また、海洋教育のうち、特に生物に対するリテラシー増幅に貢献したと思われるのが、児童・生徒がこれらを扱った学習図鑑を家庭や学校で手軽に読めることにあると考えられる。そこで、明治以降に出版された図鑑や海洋生物に関する啓蒙書の変遷を調べた成果を、令和5年10月21日から令和6年1月14日にかけて、所属機関の企画展示「海の生きものの古い図鑑-明治から昭和初期まで-」として展示した。展示ストーリーは以下のように展開した:明治時代には、殖産興業政策として各地で開催された博覧会に由来する水産系の図鑑や、教育者が編集した図鑑などが主流であった;大正時代には図鑑の出版は少なかったが、日本人分類学者が日本の海洋生物の記載分類を進め、動物相に関する知見が大幅に増えた;昭和に入ってすぐにこれら分類学的研究を基盤とした図鑑である『日本動物図鑑』が出版され、さらに貝やカニなど、各種分類群別の図鑑も出版されるようになった;これら分類学的研究の充実と図鑑を通した啓蒙は、水産系、教育系の図鑑の発展につながった;戦争に伴う海外進出に関連し、各地の資源を開発できる人材育成を念頭に、各出版社から科学に関する叢書の発行が相次ぎ、その中には良質な海洋生物の啓蒙書が見られるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は古い図鑑に基づく海洋教育の変遷を企画展示としてまとめるプログラム作りに軸足を置いたため、その他のメニュー作りが遅れることとなった。 御宿町に分布するエビ類の調査では、陸水の種はほぼ網羅できたが、海産の種については思うように知見を得られなかった。今後、関連する刊行物の原稿を取りまとめていくにあたり、調査頻度を増やすと同時に、漁業関係者の協力を仰ぎ、種類数を充実させる必要である。また、このプログラムを実施していた中で、児童は等脚目の甲殻類であるヘラムシ類に強い関心を示すことが明らかになった。ヘラムシ類を海洋教育の題材とするアイデアを膨らませていくきっかけを作ることができた。 千葉県におけるスナガニ類の分布と温暖化による海水温上昇の関係を扱ったプログラム作りはほとんど進めることができなかった。基礎情報収集のための採集活動を再開することが望まれる。 勝浦沖のキンメダイ漁場に生息する深海性甲殻類を扱ったプログラム作りは、追加標本が得られたことによって基礎情報を更新することができた。しかし、これをプログラムとして展開する具体的な案にまでは及ばなかった。
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今後の研究の推進方策 |
御宿町におけるエビ類ならびに外房域におけるスナガニ類の収集については、フィールド調査の回数を増やし、プログラムのための基礎情報の充実を計る。ヘラムシ類を題材にするという視点からの教育プログラム作りにも着手する。 キンメダイ漁によって得られた深海性甲殻類に関するこれまでの知見を整理し、企画展示としてのプログラム作りや刊行物としてまとめる原稿の準備を進める。 千葉県の過去の分布状況を理解するため、イタリアのミラノ市立自然史博物館に所蔵されている明治時代に収集された千葉県産標本を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
海岸域で顕微鏡モードのマクロ撮影が可能なデジタルカメラを購入し、教材となる写真を収集することに用いる。 ミラノ市立自然史博物館所蔵標本の調査旅費、成果を発表するための学会大会参加旅費、ならびに刊行物印本費として執行する。
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備考 |
本研究の成果の一部を所属機関の企画展示として公表した。
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