研究課題/領域番号 |
22K01052
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
伊藤 徹哉 立正大学, 地球環境科学部, 教授 (20408991)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 都市再生 / 持続的発展 / 地域資源 / 空間的不均衡 / ミュンヘン / デュッセルドルフ / ドイツ |
研究実績の概要 |
令和5(2023)年度は,(1)本研究で都市再生の地域資源として着目する,物的特性・社会特性・経済特性に関する分析手法・データ収集・方法論などを体系的に検討し,(2)築年数などの建築物の物的特性,人口属性などの社会特性,経済施設立地などに関するデータベースを更新するとともに,物的特性・社会特性・経済特性データを分析し,(3)ドイツにおいて現地の研究者と議論し,ドイツでの都市再生に関する地域資源について検討した。 まず,(1)においては,個別の都市レベルと都市内の地区レベルという異なる空間スケールの都市再生研究の動向を体系的に検討すべく,都市再生に関する既往研究の収集と分析を進めた。その研究成果の一部は,2024年3月に日本地理学会春季学術大会において「都市空間の形成・変容の転換期における都市再生の地域的条件―ドイツを事例に―」(伊藤徹哉)として学会発表した。この研究成果を通じて,1970年代前半から2010年代までは都市空間の形成・変容プロセスにおける転換期と位置づけられ,転換期における都市再生の地域的条件として3点(1.都市内部の経済構造,2.大都市圏レベルの空間スケールにおける社会的・経済的環境,3.公的事業を代表とする都市空間の質的改善へ向けた取り組み)を想定できることを指摘した。また(2)においては,2022年度までに構築したミュンヘン市の人口,建築物統計,経済施設に関する過去データ(2000年)を更新するとともに,ドイツでミュンヘン市での人口特性や都市政策に関する基礎データを収集した。さらに,(3)において,ドイツのエッセン市にあるデュイスブルク=エッセン大学地理学教室において同教室のユチェルカ教授と面談し,同国における持続的な都市内交通の整備に関する概要を確認し,都市再生に係わる地域資源について持続的な都市内交通の整備の重要性を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実施計画」では,研究期間(4年間)の2年目にあたる令和5(2023)年度に,複数の都市でフィールドワーク(現地調査)を実施し,各種資料の収集,および小地域単位での統計資料を入手し,都市再生の持続性に関する空間パターンを検討することを予定していた。この計画に基づいて,海外における現地調査を実施し,旅費を支出するとともに,データベースや分析作業に必要な物品の購入に物品費を充てた。 2023年度において,物的特性・社会特性・経済特性に関する分析手法・データ収集・方法論などを体系的に検討した研究成果を学会発表で公表するとともに,(2)ドイツ・ミュンヘン市とデュッセルドルフ市でのフィールドワークにおいて入手したデータに基づいて,築年数などの建築物の物的特性,人口属性などの社会特性,経済施設立地などに関するデータベースを更新し,物的特性・社会特性・経済特性データを分析している。このうち社会的特性に関連して,ミュンヘン市において若年人口の流入が顕著である一方,中・高齢者の転出も認められるなかで,市域人口が継続的に増加していた。さらに,(3)ドイツにおいて現地の研究者と面談し,ドイツでの都市再生に係わる地域資源について意見交換した。その結果,都市再生に係わる地域資源について持続的な都市内交通の整備の重要性を確認した。これらのことから,現在まで一定の成果を上げていると判断し,「現在までの進捗状況」は,本研究開始時の研究計画と比較して「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,都市再生政策が全国的に展開するドイツの複数の都市を事例に,都市内部と都市間において既存の物的,社会的,経済的な地域資源に関する比較分析を行うことで,都市再生の持続性の空間的不均衡に関するパターンとその背景を明らかにすることを目的とするものである。研究では,地域資源として,築年数などの建築物の物的特性,人口属性などの社会特性,経済施設立地などの経済特性に着目して空間的パターンを分析し,公共政策の整備,社会的組織,官民連携,民間資本の再投資などから背景を検討する。 研究計画ならびに現在までの研究の進捗状況をふまえ,令和6(2024)年度は,次の3点を進める予定である。(1)ドイツ・ミュンヘン市とデュッセルドルフ市を中心にフィールドワークを実施し,関連資料を収集する。また,(2)上記2都市でのフィールドワークに基づいて,事例地区となる小地域に関するデータベースの構築と更新を行い,2023年度までに整備したミュンヘン市の過去データ(2000年)と最新データとの比較検討を進める。さらに,(3)公開資料を中心として収集した人口属性や都市政策に関する基礎データを検討して,既存の物的,社会的,経済的な地域資源に関する比較分析を進める。研究成果について,日本国内の主要な地理学分野の学会において口頭発表し,成果の妥当性を議論する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として,次の2点が挙げられる。第1に,研究期間(4年間)の1年目に当たる令和4(2022)年度に実施予定であった現地調査を,2年目の令和5(2023)年度に変更したことに伴い,旅費が繰り越されていた点である。当初計画のフィールドワークに関する1年目と2年目を合算した期間よりも,令和5(2023)年度における実際の滞在期間が短かったため,旅費の支出が予想を下まわった。第2に,入手予定のデータ取得に関する費用が発生しなかった点である。当初計画で入手予定のデータのうち,デュッセルドルフ市で取得予定の統計資料について,規程の手続を踏むことによって支払免除となることが判明したため,物品費が予想を下まわった。以上により,翌年度使用額が生じた。 令和6(2026)年度は,過年度,とくに令和4(2022)年度において計画していた調査内容を含めてフィールドワークを実施する予定であり,そのための旅費を支出する。この調査に基づいてドイツで関連資料を収集し,さらに,事例となるミュンヘン市とデュッセルドルフ市で小地域の統計資料を新たに入手する予定である。さらに,入手したデータの整理とデータベースの更新のため,人件費を支出予定である。
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