研究課題/領域番号 |
22K01055
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研究機関 | 立命館アジア太平洋大学 |
研究代表者 |
轟 博志 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 教授 (80435172)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 歴史地理学 / 院 / 朝鮮半島 / 立地 / 分布 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、朝鮮半島における陸上交通体系の特徴は、古代から近世までの道路体系や交通制度、関連施設の立地の連続性にあると考える。そのため、例えば高麗時代のように史料の不足により道路体系の復原が難しい時代においても、隣接する時代の状況から類推することにより、研究の進展が見込めると考える。そのためにはまず交通体系に関連する「通時的」な要素の研究が先行する必要がある。そこで新羅時代から朝鮮王朝時代まで存続し、現在の集落や都市の立地にも影響を与えている、準公営の宿泊施設である「院」と「院集落」に着目した。院と院集落の立地・分布の連続性を証明することで、道路体系の通時的連続性を明らかにするための足掛かりを構築する。これが本研究の目的である。 2022年度においては韓国に出張し、基礎的な資料収集と予察的な現地調査を行った。当該研究分野に関する先行研究を収集した結果、考古学や歴史学がほとんどを占め、地理学的な研究はほとんど進展がなかったことが確認された。一方、近年は考古学的な院の発掘が進んでいるため、その現場には可能な限り足を運んだ。京畿道高陽市の恵陰院、忠清南道天安市の弘慶院、大田広域市の弥勒院、忠清北道忠州市の弥勒院などである。また、駅道と重複しない江原道奥地の「院道」の調査も並行して行った。院道については、機会を見て、論文として発表しようと考えている、 さらに基礎的な作業として、衛星地図上に、地名総覧なども参照しながら、文献に現れる院の跡1500か所ほどのドッティングを行った。その結果、院の数は郡県ごとにかなり偏りがあることが確認され、それは交通地理的な要因というよりも、史料の内容にムラがあることに起因していることが推測された。この点については、大韓地理学会の大会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、昨年度までとは異なり、新型コロナウイルスによる渡航規制の影響をほとんど受けず、事前の検疫とビザの取得があれば、十分に現地調査が可能であった。また、院と密接な関連がある駅については、以前の若手研究において調査方法を確立し、今回その手法を準用できたことも、研究の進行に大きく作用した。さらに、院に関する研究は、特に考古学の分野で近年大きく進展し、その成果として、現地における位置比定や構造の把握が容易であり、関連する研究者から資料を入手できたことも研究の進行に肯定的な影響を及ぼした。
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今後の研究の推進方策 |
順調であった一年目の研究の進展を受け、2023年度もおおむねスケジュール通りの進行を予定している。即ち、調書にある通り、地図調査を中心に進行する。初年次で得られた文献データを、空間上に落とし込み、立地や分布について検討する作業を行う。最初はGoogle Mapを使用して、2022年度に存在が確認された院の位置を比定する。Google Mapは北朝鮮のデータも韓国と同じ解像度で提供されているためだ。比定は朝鮮半島規模の「マクロ比定」と、道または郡県単位の「ミクロ比定」に分かれる。前者は全国的な分布傾向や幹線交通路との関係を把握することに、後者は局地的事例研究のために、院の立地や院集落との関係、現地調査に向けた情報収集に用いられる。後者は精緻さを期すため、数値地図を用いて、番地単位まで紐づけた、さらに細かい比定作業を試みる。 参照する地図は、高麗以前の古地図が現存しないため、『東輿図』など朝鮮王朝時代の全国地図や、20世紀初頭から日本陸地測量部が作成した五万分の一地形図などを使用する。また事例研究用の「ミクロ比定」に関しては、1911年より朝鮮総督府臨時土地調査局が作成した地籍原図を、土地台帳や現行の地籍図と突き合わせる作業も行う。 以上の作業を通じて、最終的な「院分布復原図」を作成する。また、作業を通じた比定・復原方法そのものに関する論文と、院の立地・分布特性およびその類型化に関する研究についても、この段階で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、2021年度までであった別の科研課題が、2022年度に延長になった。特に現地調査が入国制限により遅滞したため、本務校の業務との関係で、渡航の回数が制限される中、一度の渡航で両方の科研の業務を遂行する形になった。延長課題を優先して実施したことと、航空代金など費用で重複する部分は、年度限りで終了する延長分の科研から優先して充当した。消耗品の扱いも同様である。また地域予察の部分など、一部の研究内容は、調査そのものを2023年度に順送りとした。 使用計画としては、上記のように、地域予察に充てる予定である。具体的には夏季休暇において、上記の「院路」について、江原道区間について、経路と院の位置比定についての予察に使用する。さらに繰り越し残額が残れば、大韓地理学会や韓国古地図研究学会の発表のための出張等に使用する。
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