研究課題/領域番号 |
22K01077
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
古谷 嘉章 九州大学, 比較社会文化研究院, 特任研究者 (50183934)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 縄文ルネサンス / 先史文化の現代的利用 / 埋蔵文化財の修復・復元 / 考古遺物の複製品 / 縄文グッズ / 考古学と現代アート / 遺跡観光 / 世界文化遺産 |
研究実績の概要 |
本研究は「縄文時代の遺物や文化を参照してモノを製作する行為」および「その製作物を活用して縄文時代と現代人の間に繋がりが生み出される状況」について文化人類学的調査を通じて明らかにすることを目指す。本年度は、文化人類学的実態調査〔2.現在までの進捗状況参照〕を通じて、本研究が対象とする3項目(複製品/アート/商品)について、以下のような解像度の高い認識を得ることができた。 ①「複製品製作」を含む埋蔵文化財修復の実態について、第一線の修復家2名への聴き取りによって構造的問題も含めて理解を深めることができ、その暫定成果は彼らとの共同執筆による出版プロジェクトに結実する予定である。また各地の遺跡公園の実例を通して復元建造物における復元の在り方をめぐる問題点を確認した。さらに各地の「土器つくり愛好会」による先史土器の複製製作が実験考古学的意義をもつ一方で、個々の器物への私的偏愛に支えられていることに気づかされた。 ②「アート製作」に関しては、本年度の『縄文コンテンポラリー展』において、同館所蔵の遺物から各作家が選んだモノと各々の自作が並列展示されたことにより、先史遺物から現代アート作品が生み出される個別の具体的過程を追うことができた。他方、造形作家猪風来氏の作陶には複製を超えた「現代縄文土器」の可能性を、フィギュアなど雑貨類を縄文遺物と混在させた企画展『遠野縄文万博』には、遺物を現代的文脈に組み込むインスタレーションの可能性を見出すことができた。 ③「商品製作」に関しては、ミュージアムショップの品揃えやイベント等における商品販売についての基礎的データの収集が中心だったが、他方、「縄文グッズ」の製作と販売を先導する造形作家への聴き取りを通じて、複製品やアート作品の場合と異なる、遺物をモデルとしつつも「現代の日常生活に活かすこと」を主眼とした〈縄文ルネサンス〉の展開の方向を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
■実態調査:本年度に実施した文化人類学的調査を3つの調査項目に即して大別すれば、【複製品】:①埋蔵文化財修復(武蔵野文化財研究所、府中工房)、②土器つくり同好会(加曽利貝塚、千葉市)、③縄文遺跡公園の復元住居(東京都埋蔵文化財センターの「縄文の森」、多摩市;御所野縄文遺跡公園、岩手県一戸町)、④大森貝塚の活用と関連展示(大森貝墟碑と大田区立博物館と大森貝塚遺跡庭園、東京都)、⑤世界遺産の保存・活用(是川縄文館、八戸市;御所野縄文博物館、一戸町)、⑥『縄文シティサミットinきりしま』(国分シビックセンター、霧島市)ならびに企画展『南の縄文文化』および「秋まつり」(上野原縄文の森、霧島市)、⑦『特別史跡 三内丸山遺跡と青森の縄文』展(大野城心のふるさと館、大野城市)。【アート】:①『第21回縄文コンテンポラリー展inふなばし』(船橋市飛ノ台史跡公園博物館)、②遠野市立博物館常設展示および遠野まちなか・ドキ・土器館企画展『遠野縄文万博』、③猪風来美術館(新見市)の「現代縄文土器」展示、【商品】:①縄文造形作家による「縄文グッズ」の製作と販売、②ミュージアムショップの改装プロジェクト(御所野縄文博物館)。 ■理論研究:美術作品の修復についての研究として定評のあるチェーザレ・ブランディ『修復の理論』(三元社、2005)と田口かおり『保存修復の技法と思想』(平凡社、2015)を参考にしつつ、考古遺物の修復・復元・複製についての概念等の整理を行い、復元・複製品製作による遺物の活用方法についての理論的検討を行った。 ■比較研究:本研究関連活動として猪風来美術館(新見市)における企画展『縄文土器やアマゾンの土器たちが語るもの』にアマゾン先史土器の複製品を提供し、同時に同展関連企画の座談会「土器たちが語るもの」に登壇し、縄文土器とアマゾン先史土器の現代的の利用の比較研究の可能性について報告した。
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今後の研究の推進方策 |
■「縄文グッズ」の開発と流通:2021年にユネスコ世界文化遺産に登録された「北海道および北東北の縄文遺跡群」では、新型コロナウイルス流行の鎮静化を待って、ようやく観光客が増加しつつあるなかで、施設の整備、展示の更新と並んでミュージアムグッズの開発も本格化してきており、世界遺産ではない各地の遺跡や博物館でも同様の動きがみられる。2023年度には、遺物を活用して販売を目的として製作(ときには大量生産)されるモノを通して、縄文文化や縄文社会についてどのようなイメージが物質的な形を与えられ流通しているのか把握することに重点を置く予定である。そこでは、「物質性」や「物質的関与」に照準して従来から継続中の「物質性の人類学」(anthropology of materiality)の研究と生産的にリンクさせていくことに特に留意したい。また同時に重視したいのは、商品化されている「複製品」の巧拙の点での多様性、(今や遺跡のアイデンティティ戦略に欠かせない)「キャラクター」の商品化などであり、これらの文房具、装身具、衣類など幅広い「グッズ」は、いまや考古学から半ば独立した独自の圏域を生み出しつつあるとも言える。 ■ブラジル・アマゾン社会との比較研究を通じての理論構築:本研究は、様々なモノの製作と活用の実態を詳細かつ具体的に明らかにすると同時に、「過去のモノを参照してモノを製作し、そのモノの活用を通じて過去との繋がりが生み出される、人間社会に一般的なプロセスについての理論の構築」を目指している。そのような広範囲理論の構築のためには、〈縄文ルネサンス〉と比較可能な他の社会の事例の検討は大きな価値をもつ。そうした見地から、私が以前に調査を行った「ブラジル・アマゾン先史文化の現代的利用」の現状の解明を目的とする再調査も視野に入れつつ、理論の精緻化を図ると同時に理論の一般性を高めることに努めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)2022年度は、新型コロナウイルスによる行動制限等のために博物館・資料館の公開状況や事業・イベント等の開催状況がいまだ十分に正常化していなかったため、当初予定していた現地調査を次年度以降に繰り越す必要が生じたため。 (2)「今後の研究の推進方策」で述べたとおり、本研究の主たる目的のひとつである理論構築のためにブラジルにおいて次年度以降に実地調査を行う可能性を検討しており、そのため本年度の支出を当初の予定より控えため。
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