研究課題/領域番号 |
22K01091
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
藤岡 洋 京都市立芸術大学, 芸術資源研究センター, 非常勤講師 (80723014)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | デジタルアーカイビング / 西北タイ / 再資料化 / 映像分析 / 8ミリ / 映像フィールドワーク / デジタルフィールドワーク / 人文情報学 |
研究実績の概要 |
本研究は、学術調査で記録された動的映像(以下、映像)を時系列が厳密に担保された第一級の資料を見なし、その資料価値を採掘するために映像を資料インデックスとして活用するための方法論構築を目指す。対象は半世紀以上前に記録された西北タイ歴史民族調査団第二次調査団による8ミリ映像である。 1年目(2022年度)は、1)アナログ映像本体には記録できない調査日・調査地の特定、2)映像分析のためのプラットフォーム開発に取り組んだ。 1)に関しては、調査団公式および撮影者個人の日誌と元に、インフォーマントとともに仮組した分析用プラットフォームを使って特定を試みた。ただし、a)新型コロナ禍での調査、b)インフォーマントの居宅にインターネット環境がなかったこと、が影響して重要であるインタビューは2回の限られた。さらに研究計画段階から危惧していた事態が8月に起きた。高齢だったインフォーマントが8月23日に急逝。本研究は初年度から計画の変更を余儀なくされた。 2)に関しては、2021年度までの科学研究費助成事業(挑戦的研究(萌芽)18K1837)の成果を継承・発展させ、写真と映像とのマッチングを可能にするプラットフォームの仮組を、実装に向けてブラッシュアップした。この取り組みのなかで、一次資料であるデジタル化された映像に時系列破壊が発見され、その補正を行なわなければならくなった。だが、これは想定外の大きな成果ともなった。この試みが契機となって新たな映像資料が採掘されたことになったからである。 本年度の成果発信としては、名古屋大学において一次資料保存機関である南山大学人類学博物館学芸員との共同発表、映像分析方法論について査読誌『アート・ドキュメンテーション研究』第30号での掲載、映像の時系列復旧について京都市立芸術大学芸術資源研究センター紀要『Compost』vol.4への掲載が挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
映像記録当事者でインフォーマントである研究協力者の逝去は本研究にとりあまりに大きな痛手であり、研究の中断も考えた。しかし、存命中の元調査団員、当該地地域研究者、映像を含む資料所蔵機関による研究協力が引き続き得られること。また本研究が、資料所蔵機関からの新資料発見や既存資料の新たな価値づけにも寄与しはじめていることから、計画の修正が必要とはいえ、研究としては順調に進捗していると考えている。 本研究の柱である「再資料化」については、石川県在住の当事最年少だった元調査団員、またシャン族出身で現在は帰化し東京都に在住している元通訳からは全面的な研究協力を改めて依頼し、承諾を得た。また調査行程の地誌情報に関してとりわけ関心をもつ開発経済学者の協力が新たに得られることとなった。これに加え、本研究の取り組みによって新たな資料が次々再発見されていることは、もう一つの柱である「資料の再構成」についても明るい見通しを立てさせている。本研究は項目が固定化されたメタデータの構築ではなく、柔軟な項目変更(追加・変更・削除)が可能なメタデータモデルの構築を見据えている。新資料の発見や資料価値の変更は、この見通しを強化するものであり、具体的な方法論の構築を後押しするものでもある。
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今後の研究の推進方策 |
複数のフィルムが接合された統合フィルムが現在のオリジナル8ミリフィルムである。このオリジナルフィルムに接合ミスが疑われる事例が発見されたことから、新たにフィルム時系列の修復という課題が本研究に追加された。時系列の担保が映像記録の資料としての最大価値と考える本研究にとって、加わったこの新たな課題はなんとしても解決する必要がある。 また、当該映像撮影者を亡くした影響も計りしれない。この調査団は全員が単一行動をしていたわけではないので、映像の箇所によってはその記録意図や背景が永遠に不分明になってしまった可能性もある。撮影者からインタビューという考えられる最大のメリットを本研究は失うことになってしまった。がしかし、多くの学術映像資料は現時点での本研究対象資料と同じ状況に置かれているはずである。よって、映像に直接関わった当事者が存命中になんとしてもインタビューは引き続き徹底しなければならない。懸念としてはインフォーマントの招聘機会・訪問機会を増やす必要があることだが、これまで以上にそのための努力を惜しまず研究を進めたい。 編纂用プラットフォームの開発では、記録してきたインタビューの文字起しを進めつつ、柔軟なメタデータ候補を絞り込むための共起ネットワーク分析をインタビュー場面にリアルタイムに導入できることを目指しさらなるブラッシュアップを進めることができないかを検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はインフォーマントがほぼすべて後期高齢者であったため、新型コロナの影響を鑑み、インタビューを控えねばならない状況だった。 また、2022年8月には本研究にとり最も重要なキーパーソンだった研究協力者(映像撮影者)が急逝してしまい、その後の研究計画を大幅に見直す必要が生じてしまったことが挙げられる。 今後は、遠方にある元調査団員の招聘、新たに加わる開発経済学者との研究会、一次資料を所蔵する南山大学人類学博物館での調査を柱に、これまで以上に多角的なアプローチにより本研究の目的(資料インデックスとしての調査記録映像の可能性)を探ろうとしている。
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