研究課題/領域番号 |
22K01102
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
余語 琢磨 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (00288052)
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研究分担者 |
木立 雅朗 立命館大学, 文学部, 教授 (40278487)
黒石 いずみ 福島学院大学, 公私立大学の部局等, 教授 (70341881)
佐藤 弘隆 愛知大学, 地域政策学部, 准教授 (50844114)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 京焼 / 職人 / 伝統工芸 / 産業民俗 / 生活史 / 卸問屋 / 狭小住宅(長屋) / 労働争議 |
研究実績の概要 |
研究代表者の余語琢磨は、以前より取り組んできた京焼五条坂地区の京焼職人悉皆調査を進め、近代の五条坂における登り窯(京窯)の推移集成一覧をほぼ完成させるとともに、やや停滞していた聞き取り調査のトランスクリプト作成・整理を進めた。2022年度から継続してきたI製陶所(N電磁器株)の新出資料の分析については、京焼製陶業の近代化および製陶職工の雇用状況と労働争議のおもに2視点から予察し、口頭発表した(日本生活学会、2023年6月11日)。五条坂における窯持ち=職人関係については、さらに掘り下げを進め、京都市民に向けた研究成果還元報告も実施した(立命館大学土曜講座、2023年9月9日)。一方、2023年度の新機軸としては、職人=問屋関係の調査に乗り出し、その成果の一部は、「都市工芸・京焼における製造者:問屋関係」と題して、おもに両者の取引慣行にみる京焼業界の社会関係について口頭発表した(日本民俗学会、2023年10月22日)。これらの研究活動の結果、人類学・民俗学系の窯業調査を行う若手との情報交換の場を創出する機会を得て、交流研究会を企画・実施している(2024年2月19日)。 研究分担者の木立雅朗と研究代表者は、五条京焼登り窯(旧藤平窯)の工房調査を行い、製品の電磁器碍子や製品保護のための窯道具ゴウに関する分析をポスター発表した(日本考古学協会、2023年5月28日)。研究分担者の黒石いずみ、研究協力者の金田正夫は、これまでの調査成果をまとめて報告する一方(伝統技法研究会会報49号)、庶民住宅の研究で著名な建築家西山夘三の調査資料「清水焼職人住宅調査」掲載住宅の踏査・確認を進めて全軒を特定し、継時的調査の依頼を実施して数軒の調査資料を得た。研究分担者の佐藤弘隆は、五条坂北側にあたる六原元学区に残る町文書のデジタル・アーカイブを進め、その成果の一部を発表した(史林107巻2号)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者の余語は、引き続きI家(企業合同の後はN電磁器)の窯業経営関係資料の分析を進め、絵付磁器の日用食器から明治後半に碍子などの陶製電磁器の生産に乗り出し、近代企業として急成長を遂げた一方で、近世的な親方/徒弟・職人の関係性が資本家/職工の関係に変化していくようすを、京都における近代の労働争議に位置づけるための資料収集に努めた。一方、職人と卸問屋の関係に注目し、相互依存的な関係性の核に「伏せ窯」と呼ばれる「陶磁器の意匠をめぐる暗黙の排他的ルール」があり、明治期から現在を通底する慣行として「伝統工芸」業界の構造を産業民俗として捉えることができた。 また、研究代表者および研究分担者の黒石いずみ、研究協力者の金田正夫は、引き続き京焼職人らの職住一体の狭小住宅(長屋)について注目し、故・西山夘三が残した「清水焼職人住宅調査」資料10例の継時的調査を進めて、1950年頃と現在の生業および住宅利用の継続性と変容について、生活史の基礎資料を蓄積しつつある。 加えて、研究分担者の佐藤弘隆は、同一フィールド(東山学区)内の弓矢町文書の分析を進めるかたわら、京焼関係者が集住する五条通の南北における近代初頭の「町戸籍」の調査と収集を開始し、蓄積された資料から分析を進めている。 研究代表者および研究分担者木立雅朗は、五条坂にはわずかに3基のみ残る京焼の登り窯のうち、最大クラスの元藤平窯の工房空間および外構の調査を行い、当該施設が京都市により文化教育施設として再活用されるにあたっての改修前の最終記録保存調査を行った。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者の余語琢磨は、引き続き京焼五条坂地区京焼職人の悉皆調査を進め、個人工房の上絵付け師・ロクロ師など一般職人、および大型産業施設(登り窯)・工場の元所有者、卸問屋、小売店などへの聞き取り調査・資料収集の一層の蓄積を図り、複雑な分業・協業と階層的に成立していた京焼の生産に関する産業民俗の解明に努めたい。 研究代表者と研究分担者木立雅朗は、京都市民・地区住民に京焼の歴史(近代史)を伝える一般書籍の刊行を予定しており、具体的な出版準備に取りかかる予定である。 また、研究分担者の黒石いずみ、研究協力者の金田正夫は、西山文庫資料「清水焼職人住宅調査」当時(1950年)から70数年後の現在を比較する継時的調査の成果をまとめるとともに、家業としての京焼と職人住宅や生活様式の歴史的変容について調査を進めるために、他の伝統工芸職人の住宅と比較する新研究を開始したい。 研究分担者の佐藤弘隆は、五条坂南側へ資料収集域を広げ、京焼五条坂地区全体をカバーする町文書のデジタル・アーカイブを進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、窯業民俗や生活史に関する民俗学的調査である以上、高齢者への聞き取りが重要な部分を占める。ところが、2023年5月のコロナ感染症5類移行後も、対面調査への忌避感は強く残り、たとえば、西山夘三資料掲載職人住宅への取材は、継時的調査の可能対象者のほんとんどに高齢を理由に断られる状態であった。ようやく秋から冬にかけて警戒心が緩んで調査が進行するようになったため、現在調査予定の遅れを取りもどすべく、積極的に現地調査を進めているところである。また、本科研開始後の調査で得た聞き取りデータについてのトランスクプリプト作成の業者依頼を、2024年度前半に集中的に進める予定であるため、過年度に生じた繰越金を含めて今年度に必要な経費は多く、積極的な活用を図る予定である。
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