研究課題/領域番号 |
22K01105
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研究機関 | 北海道博物館 |
研究代表者 |
舟山 直治 北海道博物館, 学芸部, 学芸員 (90181445)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 民俗芸能 / 伝承保存会 / 祭祀 / 実施状況 / コロナ禍 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、平成30年の北海道緊急民俗芸能調査で示されている民俗芸能総数260件の約25%にあたる64件が集中している北海道南西部の伝承保存会を対象に、それぞれの伝承過程と活動状況の実態を明らかにすることにある。また、同調査で活動停止状態の伝承保存会13団体の実態把握とそれぞれが保管していると考えられる有形民俗文化財の所在調査を行うものである。さらに、これらの調査で収集した情報を公開することを前提に、デジタルデータとして資料化するものである。 調査にあたっては、北海道緊急民俗芸能調査にあげられている17市町を、①上ノ国町・江差町・厚沢部町、②乙部町・せたな町・今金町、③松前町・福島町・知内町、④木古内町・北斗市・七飯町、⑤函館市・鹿部町、⑥森町・八雲町・長万部町の6グループに分け、そのうち2グループごとに祭祀時期前(4月から6月)、祭祀時期(7月から10月)、祭祀時期後(11月から3月)の3期に調査を実施し、3ヵ年で調査を終える計画を立てた。 しかしながら、調査初年度にあたる令和4年度は、9月末までコロナ禍の影響で居住地以外への現地調査が難しく、当初に計画していた祭祀時期前と祭祀時期の調査を実施することができなかった。10月以降には現地調査が可能となったことから、祭祀時期後の調査を実施し、あわせて令和2年以降のコロナ禍で活動を停止していた祭礼や民俗芸能の把握と再開に至る状況について、調査対象地にある市町の文化財担当者などへ聞き取りを行った。さらに、活動停止中の伝承保存会を含めて、北海道南西部で伝承されている民俗芸能に関係する有形民俗文化財の所在調査を実施した。 また、映像資料を含め調査により収集した情報はデジタルデータ化を進めたほか、データを確実に保管するためのあり方と持続可能な伝承活動に資するための公開システムについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の調査を実施するにあたり、4月から6月には祭祀時期前の調査として①上ノ国町・江差町・厚沢部町、②乙部町・せたな町・今金町、7月から10月には祭祀時期の調査として③松前町・福島町・知内町、④木古内町・北斗市・七飯町、11月から3月には祭祀時期後の調査として⑤函館市・鹿部町、⑥森町・八雲町・長万部町の全6コースを予定していた。しかし、コロナ禍が長期化したことで、令和4年においても9月末までは調査地の受け入れ体制が整わず、祭祀時期前と祭祀時期の調査を断念せざるをえなかった。 一方、10月以降には、17市町の内、受け入れ体制が整った調査地の文化財担当職員及び伝承保存会員などから、コロナ禍における神社祭祀、民俗芸能の活動状況や令和5年度の開催動向について聞き取り調査を実施した。また、北海道緊急民俗芸能調査のリストからもれた民俗芸能伝承保存会の有無の確認と、伝承が途絶えている団体が保管している民俗芸能に関係する有形民俗文化財について所在を確認した。さらに、市町の教育委員会あるいは伝承保存会が旧映像機器のメディアで保管しているVHSなどの映像資料をmp4などのデジタルデータに変換できるよう機材を整備したが、初年度の調査においては変換を希望するデータの提供が得られなかった。 なお、当該年度に調査を予定していた17市町の内、①厚沢部町、②乙部町・せたな町・今金町の4町は、受け入れ時期など日程の調整がつかなかったことから未調査となった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度未調査に終わった①厚沢部町、②乙部町・せたな町・今金町の4町については、令和5年度早々に調査を実施する。同様に未調査となっている北海道西南部における民俗芸能の伝承母体となった道外地域と道内の伝承地との比較調査は、近世松前の祭礼に影響をあたえたと考えられている福井県と滋賀県の祭礼に関わる山車調査を、祭祀時期が集中する6月から10月を避けて、令和5年度の祭祀時期前に調査を終わらせる予定である。 7月から10月にかけて祭祀が集中する時期の調査は、北海道博物館において研究協力者を依頼した上で、6グループ内で近隣する地域を分担し、効率的に祭礼及び民俗芸能の記録化を進めることで、令和4年度に生じた調査、研究の遅れを取り戻したいと考えている。さらに、コロナの5類移行を背景に令和5年度は、祭礼・民俗芸能の再開が見込まれることから、調査旅費、調査に使用する車両の借り上げや燃料代などその他経費に多く配分する予定である。以上の経費を確保するために、現地調査の際には、旧機器のメディアであるVHS、ベータ、8mm、16mmなどのメディアの所在確認をするだけではなく、ダビング可能なものについては現地で作業することで人件費、謝金を削減し,旅費及びその他経費に充当したいと考えている。 以上の調査で得たデータは滞りなくデジタル化し、道立博物館でコピーを保管するとともに、市町村教育委員会・伝承保存会と共有するための調整を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍が長期化したことで、令和4年10月までは、①祭祀が中止になった地域が多かったこと、②調査地側の受け入れ体制が整わず、祭祀時期前と祭祀時期の調査を断念せざるをえなかったこと、③祭祀を実施した地域においても神事が行われただけで、民俗芸能の奉納がなかったことなどから、当該年度の実施状況を示す映像記録を集めることができなかったため、令和5年度には未調査地域を中心に調査を行う。また、同じく令和4年度に未調査であった北海道西南部における民俗芸能の伝承母体となった道外地域と道内の伝承地との比較調査を実施する。 一方、令和5年度は、祭礼・民俗芸能が従来どおりに再開されることが多く見込まれることから、映像のデジタル化などの編集作業を自前で行うことで人件費や謝金を減額した上で、調査旅費に充てることを考えている。
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