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2022 年度 実施状況報告書

「ニューノーマル」を解明するためのポストモダン法学の視点からの法的主体の研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K01111
研究機関金沢大学

研究代表者

仲正 昌樹  金沢大学, 法学系, 教授 (10303249)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードポストモダン法学 / 生権力 / 政治神学 / 正常性 / 規範 / 異常性 / ホモ・サケル / 政教分離
研究実績の概要

法が人間の主体性やコミュニケーション能力に与える影響について、ポストモダン法学的な視点からの研究を進めた。最初に、実際に起こった刑事事件の被告の言動を、文学的・芸術批評的な側面から分析し、カフカの『審判』などポストモダン的な法理論と関係付けた論考「カフカの『審判』から見た相模原殺傷事件:「掟の門」が示唆する「法」と「法外なもの」の境界線」(『金沢法学』65巻1号)を執筆し、この内容について、法哲学の研究者等と意見交換した。この論文で浮上した、「法」による他者排除作用の問題に関連して、カール・シュミットの『政治哲学』、ヴァルター・ベンヤミンの『暴力批判論』、アガンベンの『ホモ・サケル』、フーコーの生権力論を繋ぐ、「法」も持つ「正常=規範性」の形成と、その裏面としての異質なるものの排除をテーマとした論考「シュミットの『政治神学』のポストモダン的な再考」(『金沢法学』65巻2号)を執筆した。この論文に関連して、2023年3月末に愛知大学で開催された「ポストマルクス主義研究会」で、「フーコーの生権力」論と題した報告を行い、同研究会に参加した経済思想史や法哲学の研究者等と、生権力の意味について意見交換した。また、論創社より刊行されている『定点観測 新型コロナウィルスと私たちの社会』シリーズの『2022年前半』及び『2022年後半』にそれぞれ寄稿し(「コロナ禍と哲学5」「コロナ禍と哲学6」)、新型コロナウィルスによって、シュミットやフーコーが問題にした、新たな「正常性」の形成とも言うべき事態が進行していること、それが安倍元首相の暗殺を機に浮上した、宗教と政治の関係、宗教を信じる人間の主体性、宗教を信じる人間に対する社会的評価の問題と深く関係している可能性があることを示唆した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

現実に起こった刑事事件とカフカとの関連を示唆する事例と遭遇し、ヒントを得たことで、シュミットの政治神学とフーコーの生権力をうまく論理的に結び付け、二つの論考を執筆し、それに基づいて隣接する分野の研究者等と意見交換することができた。また、新型コロナウィルスと生権力問題の関連について研究を進めていく中で、2022年7月以降の、政教分離や信教の自由をめぐる論争に関与することになり、この問題も、当該研究課題と深く関係していることに気が付き、次にどの方向へ研究を進めるべきかヒントを得た。ただ、カール・シュミットの政治神学の「神学」的側面をもう少し掘り下げて考える必要があるとの認識に基づいて、この方向での研究を進めているため、二年目以降、当初考えていた研究のスケジュールと重点を多少変更する必要が生じており、それについて考えながら現在研究を進めている。

今後の研究の推進方策

カール・シュミットの政治神学と、一九世紀ドイツの代表的法哲学者で、保守主義的法治国家論を定式化したフリードリヒ・ユリウス・シュタールのそれとを比較対照し、宗教と国家の関係が、法的主体性の形成にどのような影響を与えたか考察し、論文にしたうえで、それを、新型コロナウィルス問題を含む、「正常性」をめぐる現代的な議論に繋げていく予定。同時に、Chat-GPTをめぐる法的問題も視野に入れ、来年度の研究に繋げていくことを考えている。

次年度使用額が生じた理由

購入した図書の多くが、もともと高額な、海外の業者から入手するものであり、為替相場の変動の影響で、正確にどれくらいの金額になるか予想しきれなかった。本年度も、高額の海外の文献を購入する予定があり、出張の件数も増える見込みなので、それらの費用に充てる予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] AIとの融合は「人間」を幸せにするか2023

    • 著者名/発表者名
      仲正昌樹
    • 雑誌名

      表現者クライテリオン

      巻: 107 ページ: 24-29

  • [雑誌論文] カフカの『審判』から見た相模原殺傷事件:「掟の門」が示唆する「法」と「法外なもの」の境界線2022

    • 著者名/発表者名
      仲正昌樹
    • 雑誌名

      金沢法学

      巻: 65 ページ: 1-36

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] シュミットの『政治神学』のポストモダン的な再考2022

    • 著者名/発表者名
      仲正昌樹
    • 雑誌名

      金沢法学

      巻: 65 ページ: 1-40

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] フーコーの生権力論2023

    • 著者名/発表者名
      仲正昌樹
    • 学会等名
      ポストマルクス研究会
  • [図書] 新型コロナウィルスと私たちの社会 2022年前半2022

    • 著者名/発表者名
      斎藤環雨宮処凛上野千鶴子斎藤美奈子CDB辛酸なめ子武田砂鉄仲正昌樹前川喜平松尾匡丸川哲史森達也安田浩一
    • 総ページ数
      256
    • 出版者
      論創社
    • ISBN
      978-4-8460-2195-5
  • [図書] 新型コロナウィルスと私たちの社会 2022年後半2022

    • 著者名/発表者名
      斎藤環,雨宮処凛,今岡直之,上野千鶴子,工藤千夏,斎藤美奈子,CDB,辛酸なめ子,武田砂鉄,仲正昌樹,前川喜平,松尾匡,丸川哲史,森達也,安田浩一
    • 総ページ数
      295
    • 出版者
      論創社
    • ISBN
      978-4-8460-2230-3

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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