研究課題/領域番号 |
22K01136
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山崎 友也 金沢大学, 法学系, 教授 (80401793)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 立憲主義 / 天皇 / 実質的意味の憲法 / 自由と責任 / 憲法解釈方法論 |
研究実績の概要 |
2023年度は、統治エリートによる憲法解釈をいかに統制すべきかという観点から、(前)天皇の「自由と責任」による国民統合に向けた積極的活動を評価する近時の諸学説を批判的に検討する論考を公表した。従来、憲法学説は、「国政に関する権能」(憲法4条1項)を有しない天皇を「ロボット」「虚器」として解し、その政治的影響力を極小化するのが憲法上の要請と解する傾向にあった。しかし、近時の一部学説は、逆に、天皇の国家機関ではなく「人間」としての側面に再び光を当て、「象徴天皇」により積極的な国民統合の役割を認めようとする。 しかし、仮に国民主権の「暴走」があっても、これに対するカウンターバランスを天皇に求めるのは、憲法解釈の限界を超えるというべきである。憲法上一般国民とは異なり、基本権を保障されていない天皇に対して、天皇の「自由と責任」に基づく政治的行動を期待するのは筋違いである。憲法は、前述の通り、天皇に国政権能の行使を禁じる一方で、国事行為「のみを」(4条1項)行うよう命じている。「象徴」規定(憲法1条)とか私人としての「自由と責任」を根拠として、天皇に国政に関するカウンターバランスを取らせる余地は憲法上無いといわねばならない。実際の国政に対する政治的不満を天皇に託すかのような憲法解釈は、かえって現憲法下の国民主権を掘り崩す危険性がある。「人間天皇」による積極的な象徴作用を、内閣から相対的に独立した宮内庁に補佐させようとする提案もある。しかし、同庁は、内閣総理大臣の「管理」の下にある法律上の機関に過ぎない(宮内庁法1条)。戦後、強力な政治的影響力を有する長官を失った同庁が内閣への従属を次第に強めていった現状に照らすと、宮内庁に「人間天皇」に対する自律的な補佐が可能だとは到底解し得ない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天皇による積極的な象徴作用の可否という論点を通じて、統治エリートによる憲法解釈への統制のあり方という研究課題への考察を深めることができた。並行して、憲法典を実質的意味の憲法との相互往復的解釈の形成と限界という本研究課題の当初の問題意識との連関を維持できている。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究の成果を踏まえて、統治エリートによる憲法解釈の統制と適正化のための具体的な制度構想に踏み込んだ研究を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入予定図書の当該年度中の発注が間に合わず、その分の残額が発生した。翌年度分の物品費に算入し、翌年度の図書発注に充当する。
|