研究課題/領域番号 |
22K01167
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研究機関 | 阪南大学 |
研究代表者 |
池田 雄二 阪南大学, 経済学部, 准教授 (50723144)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 建築協定 / 空地空家 / 高齢化 / 特徴的景観の維持 |
研究実績の概要 |
不動産業関連他各業種現役世代から知見を得るため「建築協定の効用とその運営における現代的諸課題」(於学士会YELL)をテーマとする報告を行った(制度概要、建築協定運営委員会の実践、法的・実際的諸問題等)。重要な指摘としては、①協定地区は独身者に縁がない地区ばかりではないか。②商工業地区の状況等についての調査不足等である。そこで以下の現地調査を行った。
1.神奈川県秦野市及び伊勢原市全地区の現地調査 最も土地勘があり、現在拠点とする大阪府と比較しつつ行い、次の成果を得た。①女性の認知度が極端に低い。一般的傾向として協定地区滞在時間が男性より長い場合、女性認知度向上が違反防止の鍵となりうる。②共同住宅等の用途を認める地区もある。必ずしも独身者に縁が無い地区ばかりではない。③店舗営業を認める地区も相当あるが、実際の店舗は多くない。駅から離れた利便性の高くない地区が多いことが原因だろう。逆に駅に近い地区にはそれなりに店舗がある。利便性は人口の還流と関係し、地区が高齢化する程、空地空家問題が顕在化するだろう。将来的な開発姿勢が問われる結果である。④全地区に更新時に過半数の反対が生じない限りの永久自動更新条項があり、且つ「以後も同様とする」の文言がある。府内はここ10数年同様の条項を認めない。そのことが全国共通の運用ではない点が重要であり、また上記文言の有無の取り扱いを調査する必要がある。 2.建築協定を特徴的景観維持等のために利用する商業地区の調査 具体的には野幌商店街(煉瓦造の商店街の景観維持)である。伝統的景観の維持手段として建築協定を1つの選択肢として与えることができる。こうした利用には①行政の支援、②協定非加入者の受け皿として建築協定より緩い紳士協定を締結、③粘り強い対話により理解を得る努力等がなされていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目的は建築協定制度が抱える問題点を抽出し、その解決策あるいは必要な支援、制度改正を提示することにあるのだが、以下の点では進捗が見られた。 ①建築協定において永久自動更新条項(反対多数でない限り、期間満了時に自動的に協定更新される条項)がここ10数年大阪府内では認められず、また自動更新条項に「以後も同様とする。」等の文言が無い場合、永久自動更新条項と扱わず、廃止に至る協定地区が生じている。しかし神奈川県内における調査の結果、最近の協定地区でも永久自動更新が認められており、永久自動更新条項を認めない運用は都道府県により一定していないことが確認された。一方で、「以後も同様とする」等の文言が全て入っており、この文言の有無の取り扱いが全国的に一義的かどうかは更なる検討課題として残った。 ②協定変更に全員同意を要することの新たな問題点が発見された。極めて形式的な変更(協定時と現行住所の不一致、未記入だった協定効力発生日の規定、後日の誤植修正等)でも全員同意による変更が必要とされている。協定変更制度の緩和の必要性が一層認識される調査結果となった。 ③協定違反の防止については日頃の協定に対する認知が重要とされる。調査の結果、男性の認知度が高く、女性の認知度が極端に低いという結果となった。協定地区に男性よりも長く滞在する可能性がある女性の認知度向上が協定違反の対策として有効である可能性がある。 一方で、以下の点についてはやや進捗が遅れている。住宅専用等とする地区の既存建築協定だけでは民泊を禁止できない運用をされている都道府県があるが、その解釈運用の妥当性についてである。これについては旅館業法の適用を受ける民泊と住宅宿泊事業法の適用を受ける民泊があるが、特に後者は住宅と扱われるものの、これを店舗住居兼用も認めず、住宅専用に限定する協定地区においても適法と扱うべきかは更なる検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
基本的にはこれまでの研究遂行で得た調査結果の検証としてその精度を高めるための調査を続行する。 まず建築協定の自動更新に対する行政の対応について、より多くまた広範囲の地域の協定について調査を行う。特に永久自動更新条項には「以後も同様とする」といった文言の有無の取り扱いについて問題が生じており、永久自動更新と扱われている地区で、しかも上記文言が挿入されていない地区がないかについて集中して調査する。これについては、行政によって公開されている資料等からある程度の調査が可能と見込んでいる。 また同時にこれまでの調査研究は住居地区の建築協定に偏っていたが、既に商工業地区の現地及びヒアリング調査を行っており、商業地区については伝統的景観の維持等住居地区とは異なる利用がみられる地区を集中的に調査し、建築協定の利用可能性を軸に調査を行う。また工業地区も2地区の現地調査を行ったが、その主な利用目的等、住居地区との違いが未だ明確ではないので、可能であれば、ヒアリングを試みる。この場合、まず行政機関に対してヒアリングを行い、必要と判断した場合には当該協定運営委員会へのヒアリングを試みる。 民泊規制については、住宅宿泊事業法等の立法資料等に当たり、住居専用の協定地区においても民泊を既存の協定で違反と取り扱う事ができないのかについて引き続き検証を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた研究調査は概ね実行できたのだが、初年度はパソコンを買い替えるための予算計上をしていたところ、希望する条件に合うスペック及び装備を備える製品が見つからなかった。現在も希望メーカーの対象を広げつつ、情報を集めており、見つかり次第、使用する。
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