研究実績の概要 |
当該年度はドイツ文献を中心に資料収集を行い、ドイツにおいて捜査開始要件とされる嫌疑(Verdacht)について文献調査を実施した。具体的には、Ricker, Anfangsverdacht und Vorurteil, 2020、およびFischer/Hoven (Hrsg.), Verdacht, 2016(共著・論文集)を中心に、研究計画書で記載した内容の確認に当たった。その過程で、ドイツにおいては嫌疑が捜査開始要件であるとともに、捜査開始を義務付ける概念であることを確認しつつ、他方で現実には前領域(Vorfeld)といわれる犯罪発生前の時点における刑事訴追に向けた情報収集等の活動が行われることが実体化していることも明らかになった。 このような情報収集活動は、事前配慮型の情報収集あるいは情報蓄積としてすでに公法学の分野からも問題を指摘されている。本来、司法警察活動、すなわち捜査の領域においては、刑事訴追に向けた活動は犯罪の発生後にその疑いがある場合に初めて行われるものと考えられ、捜査開始要件としての嫌疑も以上のように理解されてきた。しかし、少なくとも判例・実務においてはこのような原則に従った運用は、大きく変化していることを確認した。問題は、犯罪発生前は行政警察、犯罪発生後は司法警察(捜査)という警察区分論の変更をどのように説明づけるかということになるが、現状ではまだ説得的な説明には当たっていない。むしろ、従来の原則論からは説明ができないのではないかという批判的分析が多くみられる。 本研究は延長中の別件の課題研究(19K01348)と密接な関係性を有するものであるところ、現在は別件の課題研究を取りまとめ論考執筆の作業を中心に進めつつ、その過程で得られた情報をノートにまとめるという作業を行なっている。
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