研究課題/領域番号 |
22K01226
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
内田 千秋 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (40386529)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 成年後見制度 / 未成年者 / 商人 / 営業能力 / 支配人 / 商業登記 / 持分会社 / 無限責任社員 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、判断能力不十分者(意思無能力者、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人および任意後見契約が発効した場合の本人を総称して、以下、「判断能力不十分者」という)の会社法上の行為について、会社法と民法の最新の議論状況を踏まえつつ、両者の整合的な解釈を構築するために、包括的・体系的な検討を行うことにある。 当初の計画では、株主の地位の得喪と議決権行使の観点から日本法の議論状況を整理する予定であったが、本年度は、商人の営業能力に焦点を当てて日本法の検討を行うこととした。商人の営業能力とは商法上の商人が単独で完全な効力をもって営業活動を行うことができる能力をいい、未成年者に対する営業許可と未成年者登記、後見人による未成年者・成年被後見人の代理営業と後見人登記、被保佐人による支配人の選任に必要な手続等がここでの論点となる。このように商法と民法が交錯する領域について併せて検討することで、より包括的・体系的に本研究を遂行することが可能になると考える。また、高齢者人口が増えるにつれて個人商人の高齢化も進むことが予想されるため、現代の社会状況に照らして判断能力不十分者の営業能力について検討を行うことの意義は大きいといえる。商人の営業能力に関する研究成果は、令和5年度中に所属研究機関の紀要で発表する予定である。 本年度はこのほか、報告者が参加した研究会において、①「取締役等の被後見人条項の削除について」、②「社員の監査法人脱退時の持分払戻しと監査法人の商人性(東京地判令和3年6月24日金判1626号34頁)」、③公認会計士制度につき「今後検討すべき論点(フランス)」と題する報告等を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、商人の営業能力に焦点を当てて日本法に関する文献調査を行った。第一に、(1)明治時代の旧民法典・旧商法典の制定時、(2)明治時代の新民法典・新商法典の制定以降、(3)戦後の家族法改革以降、(4)平成11年の成年後見制度の導入以降の4つの時期に区分して、それぞれの時期に適用されていた民法上および商法(・会社法)上の制度を把握した上で、各時期における議論状況を整理した。第二に、未成年者登記と後見人登記の登記件数をはじめ、各種統計資料を入手した。第三に、商人の営業能力に関連して、判断能力不十分者と持分会社の無限責任社員の地位の得喪に関する文献調査も行った。第三の点は、本研究申請時の研究計画調書において関連論点として取り上げていた事項である。 また本年度は、「研究実績の概要」記載の研究会報告を通じて、本研究の対象に関する理解を深めることができた。研究会報告①では、令和元年の会社法改正により取締役の欠格条項が削除されたことに伴い、成年被後見人等である取締役が株主でもある場合にとくに問題が生じうることを指摘した。研究会報告②では監査法人の社員の脱退に関する裁判例を取り上げたが、監査法人制度において持分会社の多くの規定が準用されているため、報告②でも持分会社の社員の地位の得喪に関する制度及び議論状況を把握することができた。研究会報告③ではフランスの会計監査役制度を紹介したが、その際に、会計監査役または会計監査役会社の社員である会計監査役が被後見人等となった場合、さらには職業専門家が被後見人等となった場合についてフランスの法制度および議論状況を確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に実施した研究のうち、商人の営業能力に関する研究成果は令和5年度中に所属研究機関の紀要で発表する。また、取締役の欠格条項削除に関する検討は本研究に先行する科研費(基盤研究(C)、19K01366、「欠格条項廃止に伴う会社法と成年後見法の理論的交錯の解決を目指す民商法共同研究」、研究代表者:上山泰)の研究課題であり、当該科研費の研究成果をもとに令和5年度中に共著書を刊行する予定である。同書では、判断能力不十分者である商人や株主についても言及する。 令和5年度は、以上の作業と並行して、判断能力不十分者である株主の地位の得喪と議決権の行使に関する日本法の文献調査を進める。会社法の教科書やコンメンタール等を精査して関連論点を抽出した上で、個々の論点に関する文献を入手し、精読する。 令和6年度は、令和5年度の研究成果を所属研究機関の紀要等で発表する。令和6年度になれば新型コロナウィルスの感染状況も相当程度落ち着くと考えられるため、フランスに渡航して現地で文献調査を行う。令和6年度の後半は、フランスの商法・会社法・民法の文献をもとに、判断能力不十分者である社員の地位の得喪と社員権の行使に関するフランスの議論状況を整理・分析する。 令和7年度(最終年度)は、所属研究機関の紀要等でフランス法に関する研究成果を公表するとともに、それまでの研究で明らかにできた問題点について、民法と商法・会社法に整合的な解釈論を提示し、または政策提言を行う。 なお現在、成年後見制度のあり方について改正も視野に入れた議論が行われている。改正後の制度がどのような制度になるにせよ、まず、これまでの制度(成年後見・保佐・補助の三類型)のもとでどのような議論がなされ、どのような問題が生じていたのかを明らかにしておくことが重要であるように思われる。本研究期間はこのような観点から研究を進めることとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本科研費に加えて、本年度は、別の科研費(基盤研究(C)、17K03454、「自由職業と会社法の交錯ーフランス法の検討からー」、研究代表者:内田千秋)等の助成も受けていた。新型コロナウィルスの感染拡大を理由として科研費(17K03454)の研究期間を1年延長したことによる。本科研費と科研費(17K03454)とでは研究対象が異なるものの、いずれの研究においても会社法の文献を入手する必要があった。両研究に共通する文献について、本年度が最終年度となる科研費(17K03454)から優先して支出した結果、本科研費において次年度使用額が生じた。 本年度中に入手できなかった日本の中古書も多いため、次年度(令和5年度)は、本研究に必要な中古書を収集するとともに近年刊行された図書も引き続き購入する。フランス文献については、商法の教科書、未成年者・成年後見制度に関する図書等を中心に文献を収集するが、併せて会社法の教科書等の新版も購入する予定である。 また近時、対面開催の研究会や学会も増えてきたことから、次年度以降は、出張旅費の支出も増える見込みである。
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