研究課題/領域番号 |
22K01229
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
今井 克典 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (30283055)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 債権者異議手続 |
研究実績の概要 |
会社法は、株式会社が次の行為を行う場合に、会社債権者を保護するために、債権者異議手続を用意するとともに、会社債権者に株式会社の行為の無効の訴えの提訴権を認めている。その行為は、資本金の額の減少、組織変更、合併、会社分割、株式交換および株式移転、ならびに株式交付である。 債権者異議手続の対象の会社債権者は、株式会社が債権者異議手続において弁済、担保提供または財産信託をすることが可能な種類または内容の債権の債権者である。したがって、対象の会社債権者は、金銭債権者に加えて、非金銭債権者のうち損害賠償額の予定がある場合の債権者と、株式会社の行為の前に債権者が非金銭債権の対価として負担する債務の金額が確定する場合の債権者であると解するが妥当である。 このように解すると、会社債権者でありながら、債権の種類または内容によって、会社の弁済、担保提供または財産信託に適さないことから、債権者異議手続から排除される債権者(以下「不適合債権者」という)が存在することになる。 一方、無効の訴えの提訴権が認められる会社債権者は、「承認をしなかった債権者」である。承認をしなかった債権者には、債権者異議手続の対象の債権者で異議申述をした債権者、会社法が明文で債権者異議手続の対象としない債権者、および不適合債権者がいる。提訴権は、通説によれば、異議申述をした債権者のみに認められるが、これに加えて、不適合債権者にも認められるのが妥当である。会社法は、不適合債権者を明文で保護の対象から排除しているわけではなく、不適合債権者がたんに債権者異議手続に適さないという理由で何らの保護も与えられないのは、適切ではないからである。 無効の訴えにおける無効事由としては、不適合債権者は、異議申述をした会社債権者と同様に、株式会社の行為が債権者を害するおそれがないときに該当しないことを主張しうると解するのが妥当である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
株式会社の行為の無効または取消しを主張するには、会社法上の無効の訴えに係る請求と民法上の詐害行為取消請求とがある。このうち、前者の会社法の無効の訴えに係る請求に関して、債権者異議手続の意義を踏まえて、その提訴権者および無効事由を考察し、一定の成果を得た。 その後、民法上の詐害行為取消請求を対象として、現在、その効果と取消権者を考察している。
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今後の研究の推進方策 |
株式会社の行為が民法上の詐害行為取消権の行使によって受ける影響等を考察する。株式会社の行為としては、これまで問題とされてきた会社分割を採り上げる。株式会社の行為が詐害行為取消権の行使によって取り消された場合の効果について、検討を加える。検討の対象は、会社分割が取り消された効果としての積極財産の移転の返還または価額償還という取消しの直接の効果とどまらず、当該効果が生じた際に生じる問題として、会社分割により移転した消極財産の取扱いまた保護の方法を含む。 効果のほかに、詐害行為取消権を行使しうる債権者の範囲について、債権者異議手続の対象の債権者の範囲を踏まえて、検討を加える。詐害行為取消権の行使による効果と、債権者異議手続または会社分割の無効の訴えに係る請求の認容による効果とを踏まえ、詐害行為取消権の行使を認める必要のある債権者、または、必要のない債権者を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の購入が予定よりも少なかったから。消耗品または図書の購入に充てる。
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