研究課題/領域番号 |
22K01235
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
遠藤 歩 九州大学, 法学研究院, 教授 (50347259)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 和解 / 民法 |
研究実績の概要 |
本研究は、「和解論の新たな展開 ―第三者の許可を要する和解」という表題の下、第三者(特に裁判所)の許可を要件とした、新たな和解概念の構築を目指すものである。この研究を遂行するにあたっては、フランス法やドイツ法などとの比較を通じて、裁判所の監督権限の意義と限界を明らかにし、その成果を裁判所等の和解許可権限の正当化根拠と接続することが中心的な作業となる。 研究期間1年目である2022年度の目標は、フランス法における裁判所の監督権限の意義を明らかにすることにあった。そこで、まずは、裁判所の認可を意味するhomologationという概念の分析を行った。その結果、homologationにもさまざまな根拠、類型、適用場面が存在すること、従って、個々の類型毎に精緻な分析を加えるべきことが明らかとなった。 次いで、homologationを手続面から考察するために、フランスの非訟事件手続(juridiction gracieuse)を検討した。現在のフランスでは、21世紀の司法の現代化に関する2016年11月18日の法律(Loi n. 2016-1547)による脱司法化の動きがあり、非訟事件において裁判所がhomologationを通じて行っていたいくつかの事柄が、第三者の権限に委ねられるようになってきたことを確認した。 これらの考察を通じて、裁判所のhomologationにもさまざまな類型があり、個別の考察が必要であること、さらに、脱司法化の流れにより、裁判所以外の第三者の権限が強化されていることが明らかとなった。ここから、第三者の許可を要する和解概念の析出のためには、homologationの諸類型の考察と脱司法化の流れをいかに接続させるかが重要な分析視角となるという知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、第三者(特に裁判所)の許可を要件とした、新たな和解概念を構築することである。研究期間1年目である2022年度の目標は、フランス法における裁判所の監督権限の意義を明らかにすることにあった。 本年度の作業では、まず、フランスの近時の研究たるT. Goujon-Bethan, L'homologation par le juge (2021) に依拠しながら、フランス法における裁判所の認可(homologation)という概念を研究した。これにより、homologationには、行為の有効要件に関するものと、執行要件に関するものが存在することが明らかとなった。 そして、前者は、代理権限の確認(後見、親権)、財産行為(契約内容の確認、交通事故、消費者保護)、不動産売買、和解、健康被害の集団訴訟などで必要とされるものであった。また、後者は、仲裁契約、和解、裁判外紛争解決、公正証書への執行力付与などで問題となることが分かった。そして、和解はいずれのhomologationにおいても問題となることが明らかとなった。 さらに、2016年以降の脱司法化の流れにより、裁判所の認可権限が第三者に委ねられる傾向があることを確認した。 これらの作業から、抽象的概念的にhomologationを論じようとすると、必要以上に検討分野が拡大するため、まずは、たとえば後見、親権、消費者保護といった分野に検討対象を限定すること、次いで、そこでの裁判所の認可による和解の意義と機能を明らかにすること、最後に、裁判所認可の一般論と裁判所以外の許可権者の検討に進むべきだと考えるにいたった。 このように、研究の進め方についての発想を転換することにより、研究を具体的に進展させることができた。また、新たな視角からの研究にも既に着手している。そのため、本研究は全体としておおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度(2022年度)で得た知見にもとづき、後見、親権、消費者保護などの特定の分野に限定して、裁判所や第三者の許可を要する和解についての分析を行う。その際、フランス法、ドイツ法、日本法の三カ国比較を行い、新たな知見を獲得することに努める。 現在、いくつかの分野における裁判所の許可を要する和解につき、フランス法とドイツ法の判例学説を整理検討する作業を開始しており、今後もこれらの研究を継続してゆく。そして、最後に、フランス法、ドイツ法、日本法の比較法研究を行い、一定の研究成果を提示したいと考えている。
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