研究課題/領域番号 |
22K01240
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川島 いづみ 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (50177672)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 会社法の区分規制 / 有価証券報告書提出会社 / 公開会社 / 上場会社 / 大会社・大会社でない会社 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず現行会社法について、公開会社、有価証券報告書提出会社(有報提出会社)および上場会社を適用対象とする条項を確認し、それぞれの条項の適用対象の捉え方が適切であるかについて、各条項の沿革や規制の趣旨も勘案して検討を行うこととした。この検討を行う基礎として、イギリス2006年会社法の規制区分には、公募禁止の基準(公開会社・私会社)と規模の基準(大会社・中規模会社・小会社等)に加えて、上場会社等(quoted companies)と規制市場上場会社(traded companies)という区分が設けられており、特に後者の二つの区分では、具体的にどのような条項が設けらているかを確認して、比較法的観点からの参考とすることとした。 この検討により、沿革的には昭和56年改正当時、商法特例法上、株式会社の規制区分として公開会社・非公開会社は存在せず、大会社は、会社の規模の大小ばかりでなく、所有と経営が分離し多数の株主が存在する会社を象徴する概念として使用されていたと考えられることから、その残滓が現行会社法には未だに残っているのではないかとの仮説に立ち、この視点から、連結計算書類の作成義務、社外取締役の設置義務、取締役の個人別の報酬等の内容決定に関する方針の決定および企業集団の内部統制に関する条項について検討を加え、これらを非大会社である上場会社にも適用すべきであると考えられることを明らかにした。そして、この内容を、2022年7月23日開催の東京商事法研究会(主催:酒巻俊雄早稲田大学名誉教授)と、同年10月9日開催の日本私法学会のシンポジウム「株式会社法における区分と規律」において報告した。 さらに、これらの報告に対するコメント等を参考に、大会社・非大会社の規制区分に関連して、非上場会社である大会社の実態を調査する作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度には、わが国の会社法に定められた上場会社を適用対象とすべきと思われる条項について、制度趣旨と沿革等を調査・検討してまとめるとともに、イギリス会社法について、上場会社などを規制対象とする条項等の在り方やその沿革を研究することを予定しており、関連して、イギリス会社法に影響を与えたであろうEUの株主権指令等に関する資料・文献の収集や、米国等の会社法に関する知識・文献のアップ・デートを行う予定であった。 「研究実績の概要」でも述べたように、わが国会社法に定められた上場会社を適用対象とすると思われる条項については、一応の検討(仮説の検証)を行うことができた。また、イギリス会社法については、現行法の規制区分と具体的な条項を確認することはできており、それら条項の沿革についても、部分的ではあるが確認することができた状況である。予定した資料等の収集や収集した資料等の分析も、一定程度は進めることができている。これらを勘案すると、全体としては、概ね順調な進捗状況であるということができる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には、第一に、イギリス会社法の上場会社等や規制市場上場会社に関する条項について、沿革やEUの規制(EUの株主権指令や関連する法令等)の影響を検討して、論文にまとめる作業を進めることを計画している。そのためにも、第二に、イギリスのEU離脱の会社法への影響などを把握するために、イギリスの会社法所轄官庁等での聴き取り調査と資料収集のために現地調査を行うことを計画している。ただ、円安等の影響から、外国書籍の値段が高騰しており、また渡航に要する費用も高額化を免れないことから、研究費の使用状況を勘案して実施可能性を見極めることにしたいと考えている。第三に、これらと並行して、昨年度取りかかったわが国の大会社、特に非上場の大会社の実態把握の作業を進める予定であり、大会社・非大会社の規制区分についての検討につなげる計画である。なお、論文にまとめる作業を進める過程で、インターカレッジの研究会において、研究報告を行うことも目指している。 そして、2024年度には、比較法研究の対象を米国やオーストラリア等の会社制定法にも拡大し、イギリス会社法の規制に普遍性があるかを検討した上で、全体の研究をまとめることを考えている。ただし、研究の進捗状況によっては、比較法研究の対象をより限定することが必要になるかも知れず、その点は現在のところまだ確定的ではない。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度以降に刊行が予定されている書籍(主に外国書籍)の購入に費用を要することが予想されるため、その費用に充てること、また、2023年度には海外調査を予定しており、その費用のために、書籍や資料の購入に充てる金額を削らざるを得ないと考えられることから、若干の金額を次年度使用額とした。
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