研究課題/領域番号 |
22K01243
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
千手 崇史 近畿大学, 経営学部, 准教授 (80631499)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 業務財産検査役 / 商法改正 / 会社法 / 非訟事件手続法 / 司法権 / 監査役 / 株主の情報収集権 / 制度趣旨・位置づけ |
研究実績の概要 |
本研究は、会社の不祥事が疑われる場合などに「株主が会社の情報をいかにして得るか」というテーマに関するもので、全体として、以前科研費の支給を受けて遂行していた研究(若手研究;JP19K13576(以下、若手研究という))の続きに相当するものである。具体的に、若手研究においては株主が会社の帳簿書類を取得する「直接型」制度(アメリか由来)と、株主が弁護士等に会社を調査させる「間接型」制度(イギリス由来)の比較に関するものであった。研究代表者は、後者の制度に大いなる可能性を感じ、本研究においてはイギリス由来の「検査役」制度に特に重点を置いて研究を進めている。 日本の検査役制度はイギリス法を参考にして、明治23年の一番最初の商法の時から規定されている。検査役制度は情報漏洩の少ない点で大きな利点を持つにも関わらず利用が殆どされない。文献には「コストと時間がかかる」とあるが、果たしてそれだけか。 これについて、2022年度は、本研究の入り口である「日本の検査役の「本当の問題点」」の調査から入った。方法として、明治23年当初の法律からはじめ、この制度に変更が加わった法改正の時点ごとに情報を集めて整理している。その過程で、法規定の背後にある、「制度趣旨」そして、そのような法改正が起こった「時代背景(例;戦争による好景気があったことが会社法制に与えた影響など)」に特に注意した。結果、まだ国内の学会で紹介されていない情報を含む、驚くべき多数の情報に接した。「コストと時間」だけが理由ではなく、本制度の本当の問題点は制度趣旨の変遷や、本制度とは違う「他の制度との関連」、また手続や実務慣行あることが現時点で判明している。 本研究成果は、3月25日の関西商事法研究会(オンライン)で報告し、多数の有益なご指摘をいただいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
やや遅れている。その意味は二つある。第一はネガティブな意味であり、これの前提となる若手研究がコロナウイルスなどの影響で大幅に遅れたが、その遅れを本研究が引き継いでしまっているということである。もっとも、若手研究においてもそうであったように、本研究も遅れを取り戻すべく全力を挙げている。 第二はポジティブな意味であり、調査の過程で当初予定していなかった多くの論点、新たな情報に接したということである。本テーマについては、既に大変詳細な研究が複数ありはするが、数は多くはなく、特に戦前の日本検査役に関する情報や海外の情報(特にイギリス以外)は少ない。よって、このような論点・情報についてはある程度の力量と時間を割いて検討することが必要であると考えており、その点において「意味のある遅れ」であると解釈している。もちろん無用な遅れには気を付けるが、拙速にもならないようバランスを取り、ある程度の丁寧な検討を心がけ研究成果へと結び付けたい。 なお、現在の執筆と並行しながら、本制度そのものや付随する手続に関する国内の文献、またイギリス、EUの会社法に関する文献を数多く収集して準備を整えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在遂行中の日本検査役の「本当の問題点」に関する研究は、既に47000文字以上執筆しているが、申請者の感覚ではまだ6-7割の完成度である。今後、3月末の関西商事法研究会における指摘内容をフィードバックする形で推敲する。そして、5月27日に予定されている立命館大学商法研究会において再度報告を行い、そこでの指摘も踏まえて、論文として発表する予定である。具体的に、(可能であれば)2023年度中盤までに脱稿し、研究成果を公表したいと考えている(仮題「株式会社における業務財産検査役の問題点-法改正の変遷と制度趣旨・位置づけの見えざる変化-」)。なお、文字数が超過するようであれば、(上)(下)など複数に分けて順次公表する。 その後、すばやく海外の同制度に関する比較研究へとうつる。なお、イギリス検査役に関しての総論的な研究は既に若手研究の最後の段階で終えている(商経学叢69巻2号にて公表済み)。よって、本研究における海外の検査役(に相当する)制度研究は、研究代表者が若手科研で行った研究の発展版と位置づけ、そこで扱えなかった各論的な論点や、国内でまだ紹介されていない情報を中心に研究・執筆する計画である。2023年度は主に日本の検査役制度のモデルとなったイギリスの制度のさらに深い検討を中心とするが、イギリス・他の法域のいずれも文献の収集・準備を並行して続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
支出期限前に、2022年度の受給残額を超えないようにと考え、慎重な執行をしたため、結果的に残額が生じた。しかし、3月3日以降既に2023年度分として執行し、書籍・資料を入手する等利用しており、意欲的に研究を継続している。
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