研究課題/領域番号 |
22K01248
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石川 博康 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90323625)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 民法 / 契約法 / 契約条項 |
研究実績の概要 |
本年度は、これまで実施してきたイングランドにおける契約解釈をめぐる研究を踏まえ、代表的なボイラープレート条項の一つであるNo Oral Modification条項(口頭修正禁止条項)の効力をめぐる問題を中心に、検討を行った。すなわち、NOM条項とは、契約締結後に合意による契約の修正を行う場合には書面によって行わなければならないとする条項であり、その効力をめぐって各国の法制度において異なった取扱いがなされている。特に、イングランド法においては、従来のコモン・ロー圏の判例ではNo Oral Modification条項の拘束力に対し消極的な立場を示すものが多かったところ、2018年の最高裁判決(Rock Advertising Ltd v MWB Business Exchange Centres Ltd)によって、No Oral Modification条項の拘束力を原則として承認する立場を示すに至っている。そこで、このようなイングランド法の動向やそれに対する他のコモン・ロー諸国の裁判例における反応を含め、No Oral Modification条項の効力をめぐる比較法的な分析を行うとともに、それらをめぐる学説上の議論について検討を行った。その成果として、「No Oral Modification条項の拘束力と変更合意の効力」と題する論文を執筆し、書籍に収録する形で公表を行った。 以上の他、定型的な契約条項の効力をめぐる個別的問題の一つとして、不動産賃貸借における残置物処理のための自力救済条項の効力をめぐる問題について検討を行った。この成果として、「不動産賃貸借における残置物処理と自力救済」と題する論文を執筆し、これについても書籍に収録する形で公表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
No Oral Modification条項の効力をめぐる問題は、本研究課題における検討作業の端緒として行うべき作業として位置付けられるものであり、本年度の作業においてこの点に関する検討を完了し、論文の公表にまで漕ぎつけることができた。以上を踏まえた今後の作業の進め方についてはなお考慮の余地はあるものの、これまでの検討作業およびその成果に関しては、おおむね当初の予定通りに進捗しているものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の作業の進め方としては、従来のイングランド法に関する研究を軸としてさらに検討を深めていくことが中心的作業となる。具体的には、近時のイングランドの裁判例において、関係的契約の概念に依拠しつつ黙示条項としての信義誠実義務を認める裁判例が現れており、この点に関する分析を行うという作業に着手する予定である。関係的契約論に関しては、以上のような裁判例における実践的な展開の前提として、契約の基礎理論のレヴェルにおける重厚な議論の蓄積があり、その点に関する分析も必要となる。以上の点と関連する本年度の検討作業として、日本における関係的契約論に関する代表的著作である内田貴『契約の再生』について検討を行い、その成果として「関係的契約理論における解釈理論と解釈学―内田貴『契約の再生』 」と題する論文を執筆している。これらの作業を踏まえつつ、イングランド法における関係的契約論に関する分析につき、今後さらに検討を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍の購入計画との関係で若干残額が生じているが、本年度に購入ができなかった書籍に関しては次年度以降において購入する予定である。
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