研究実績の概要 |
2022年度は、ベルギー法に関する欧州人権裁判所判例とその影響について検討した。 ベルギー民法2252条は、フランス民法(旧2252条、新2235条)と同じく、未成年者の期間中の時効停止を定めている。もっとも、ベルギー保険法(1874年6月11日の法律)32条は、保険証券による全ての訴権は保険事故発生の時から3年で時効にかかるとしていた。ベルギーの最高裁判所(Cass., 30 juin 2006, R.G. no C040573F)は、この特別な時効を定めた目的が、ベルギー民法2252条の適用を排除することであるとして、ベルギー民法2252条による時効停止を認めなかった。また、更に、「法律から生じた障害ゆえに訴権を行使し得なかった者に対して時効が進行しない」という法諺(この法諺はフランス判例において用いられることがある)が法の一般原則でないとした。 しかし、欧州人権裁判所(CEDH., 7 juillet 2009, J.T. 2009, p.499.)は、成年に達するまでの期間、未成年者がその財産を防護するのが実質的に不可能であることを指摘した上で、この時効の厳格な適用が未成年者の権利行使を困難ならしめるとして、ベルギー保険法32条が欧州人権条約6条1項(裁判所にアクセスする権利の保障)に反するとした。 欧州人権裁判所の判決を受けて、ベルギー保険法は改正され、保険に関する訴権の時効は成年に達するまで進行しないこととなった(2014年4月4日の法律89条)。また、本判決を契機として、法諺を基礎として、(未成年者以外の場合であっても)権利行使が不可能な場合に時効停止を認めるべきかがベルギーで議論されている。 以上の検討から、ベルギー法においては、欧州人権条約6条1項に関する欧州人権裁判所の判例を影響の下、時効の停止の意義についての再検討が進められていることが明らかになった。
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