研究課題/領域番号 |
22K01267
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
土岐 孝宏 中京大学, 法学部, 教授 (70434561)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 洪水保険 |
研究実績の概要 |
地震災害、洪水災害を典型とする巨大(自然)災害からの経済復興という社会的課題に対し、私保険(自助)が果たす役割と国家がこれに積極的に関与し助力を与えることの有用性を検証し、両者の役割分担のバランスの中、あるべきリスクファイナンス制度の構築を、諸外国の制度比較のもとに模索するという本研究の実施にあたり、本年度は、まず、イギリスの洪水再保険制度に焦点をあて、かかる制度についての資料文献調査等を進めることとした。同制度は、洪水補償に対して民間保険(住宅保険)が提供してきた従来の補償が限界を迎えたところに、国家が助力を与え、洪水補償からの民間保険の撤退という補償の危機を阻止し、まさに国家の助力というバランスのもとに外部化困難なリスクについてのリスクファイナンスが成立した制度(比較)例であり、本研究の目的に対し、もっとも興味深い視点を提供する制度であるためである。この撤退阻止にあたり、国家が、同時に「減災」という、民間保険が関心を寄せるリスク量の低減に対する取り組みを同時に約束しているという点も重要である。本年度の研究の成果は、同制度の枠組みの把握(基礎調査)という点以外にも、思わぬところに現れた。土岐孝宏「組立保険における損害の評価<以下略>」判例評論766号143頁注15(2023年1月)の箇所に言及したところでもあるが、洪水補償を提供するその基礎であるイギリスの住宅保険のごとき財物保険では、事故の際の損害てん補は、復元・修理を保険者が指定して実施するのを原則とし、なおかつ、差額は保険契約者の自己負担となるものの、より性能の高いものへの現物復旧が制度的に可能とされていることが明らかになった。洪水被害は同じ場所で起きること、事故の際、次の事故に備え浸水被害に遭いにくい建物にしておくことが減災に寄与することを踏まえれば、このアイデアは興味深い展開可能性を秘めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、自然災害にかかる私保険も関与する国家的補償の枠組みについての海外制度調査が中心となるところ、研究年度1年目において、本研究の目的、関心にもっとも適合する、その意味においては本研究のなかでも重要な位置を占める制度(イギリス洪水再保険制度)について、海外調査を含めた基礎調査を開始することができたからである。なお、海外調査は、当初、研究期間の後半に集中的に予定したものであり、研究期間の前半は、国内での調査をメインに計画を立てていたところであるが、本年度前半に実施した国内文献調査において、わが国内には資料が乏しく、それ以上に進めた研究の実施が困難であることが判明したた。このため、計画を一部修正し、前倒して海外にその資料を求める調査を開始することとした。その結果、上に示したとおり、まずはその一年目の成果として、制度の概要把握をすすめつつ、あるべき制度構築に向けたアイデアを得ることもできた。このように、一部修正したことにより、おおむね順調に進展している、との進捗状況を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
イギリス洪水再保険制度についての調査研究をはじめ、その足掛かりを得たところであるが、その全容解明にはなお相当の時間を要する。イギリス国内には、制度そのものについての賛否も議論されており、毎年、当該制度についての分厚い報告書(年次レポート)も出されている。英国では、これらの資料に容易にアクセスできる一方、前述のとおり、わが国での資料調査には限界がある。アイデアをあたためつつ、本年度同様、研究実施方法についての計画を部分的に修正し、海外調査を中心に据え、まずは、次年度もイギリスの洪水再保険制度の調査を継続して行っていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書(物品費)として計上した額が、図書そのものの出版状況(乏しい)により、計画通りに執行できなかった。このため、差額(未使用)が生じた。次年度、直ちにその状況が変わることは期待できないが、機を見て執行に努めたい。
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